バイリンガルのエマさんは、これまで、翻訳劇の難しさに痛いほど向き合ってきた。「こういう言い方だと、伝わりづらいんじゃないかな」と思っても、俳優は台本にあるセリフを正確に言うことが仕事だから、違和感を覚えてもそれを口にしたことはほとんどなかった。
「でも今回は、稽古の前に翻訳をみんなで丁寧に分解していく作業をさせていただいているんです。翻訳劇では、『今のセリフの意味、よくわからなかったけど、アメリカの話だから仕方がないか』って思われてしまうことがよくあるので、それがないようにしたいなって。『ラビット・ホール』は、文化や言語を超えた“真実”を伝える作品だと思いますし、英語も日本語もわかるのは、私が両親からもらったすごく大きな武器なので。生意気かもしれないですが、『よりよい演劇のために、ぜひディスカッションした上で稽古に参加できればいいんですけど』と提案をしたら、今回は特に早めに粗訳というものを読ませていただけて。翻訳の小田島(創志)さんも、『僕も現場で役者の皆さんのセリフを聞いて、どんどんアップデートしていきたい』とおっしゃってくださったんです。今回は、多言語を操る共演者も多いですし、そういう人たちと一緒に、キャラクターの現在地を探っていけることが、幸せですし、楽しくてしょうがないです」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2023年3月31日号より抜粋

