座っているだけで腰への負担が1.5倍以上に
座っているだけで腰への負担が1.5倍以上に
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 いま、シリコンバレーでは「座らないオフィス」が流行だという。アメリカのオフィス家具専門店・Applied Ergonomics社によると、2013年にはスタンディングデスクの売り上げが50%も増加したそうだ。Google社もHulu社もFacebook社も、スタンディングデスクが急増しているという話がある。デスクワークとは座ってするものという概念が崩れつつあるらしい。

 そもそも、オフィスのデスクは俗に“島”と呼ばれる課ごと、グループごとに分けられていた。それが変わりだしたのは1990年台後半あたりのこと。フリーアドレスオフィス(社員が個々に机を持たないスタイル)、ノンテリトリアルオフィス(デスクや設備などを複数の社員の共同使用とするスタイル)と呼ばれるものがそれだ。

 そもそも、営業といった外回りが多い仕事では、日中のデスクは不用。ならば、フリーアドレスで「いるときだけ使うデスク」でいいだろう、というものだ。また課ごと、グループごとの垣根を取りはらって仕事を活性化したいという場合にも、これらのオフィススタイルは求められたのだ。その背景には、パソコンが小型化し、無線LANによるネットワーク環境が当たり前になったこともある。

 ただ、フリーアドレスオフィスやノンテリトリアルオフィスという考え方は「仕事の効率」「オフィスの効率」という会社の事情で求められたものだった。しかし、いま、流行しているスタンディングデスクはその先にある。そもそも座らないのだが、このスタイルが求められる背景は、効率ではなく、社員の「健康」なのだ。

 座ると楽だというのは、どうやら“違う”らしい。そもそも人間は立っている姿勢こそが自然であり、座っているだけで腰への負担が1.5倍以上になるというデータがある。座り続けて腰を痛めた経験がある人が多いだろう。さらには、運動不足で肥満率が上昇する、糖尿病や心疾患の危険性が高まり、その危険度は喫煙並みだという説もある。「セデンタリー・デス・シンドローム(座りすぎが死につながる症候群)」という言葉さえある。つまり、スタンディングデスクの流行は、「働いて死にたくない」という心の叫びなのかもしれない。

 その要求に応えて、いまでは「座っている時間を記録するデスク」まで存在する。ノースウェスタン大学フェインバーグ医学大学院の発表によると、1日13時間を座った状態で過ごす65歳の女性の場合、1日12時間座っている場合よりも、体が不自由になる可能性が1.5倍高かったという。リラックスして座っているはずが、自らの寿命を縮めているというのだ。

 オフィスのスタイルが仕事の効率ではなく、健康で変わっていくというのはいかにも現代らしい。アメリカでは運動不足解消のために、モーニングミーティングをウオーキングをしながらしている会社もある。もしかしたら、近い将来、オフィスから椅子が消えると言う時代がやって来るのかもしれない。