「セカンドライフの中でビジネスで成功し、米ドルにして100万ドルを稼いだ」
いまやなにを言っているのかわからない文章になってしまった。「セカンドライフ」は、アメリカ・リンデンラボ社が提供している“仮想現実空間”だ。SIMと呼ばれる島があり、会員はそこで自分のかりそめの姿「アバター」となって第二の生活を送る。
サービス開始は2003年のことだったが、2007年頃、大手企業がセカンドライフに支店を出すようになり、一気に話題となった。新古書店のブックオフが支店を出したり、電通が大量のSIMを購入したり、mixiが採用拠点をセカンドライフに置くといったことが実際に行われたのだ。
セカンドライフ内で流通する通貨・リンデンドルは米ドルと交換できたため、最初の一文のようなことも実際に起こった。しかし、あっと言う間にブームは去ってしまう。その後、ネット上のコミュニケーションの場となったのは、3Dの仮想空間ではなく、テキストが中心となるSNS、Twitterやmixi、facebookだった。
08年には、電通を始め多くの企業が「マーケティング成果が得られない」として、次々とセカンドライフから撤退した。日本企業にとって、日本人ユーザーが増えなければマーケティング効果は薄い。
しかし、アメリカでも多くの企業が早々に撤退している。言葉の壁だけが原因ではなさそうだ。セカンドライフの最大のポイントである「第二の生活=リアルの生活とほとんど同じことができる」ということが求められていなかったと言えるのではないだろうか。
SF小説では「進化の果てに仮想空間で暮らすようになった未来の人類」、「実は我々が生きている空間は仮想空間で、我々はデータに過ぎない」といったテーマの作品が存在する。
それらの作品でセカンドライフのような仮想空間での暮らしが成立しているのは、「すでに肉体がない」「実験のため」といった、仮想空間でなければならない理由がある。現実の「セカンドライフ」にはそれがなかったのだ。小さな仮想空間である村を舞台にしたNintendo 3DS対応のゲーム「飛びだせ!どうぶつの森」は大ヒットした。仮想空間は、まだまだゲームで十分なのかもしれない。