安倍氏の外交的成果を評価する声が根強くありますが、これも正しくありません。アメリカの言いなりになって軍事費を増やしてアメリカの兵器を購入し、アメリカの属国としての地位に甘んじる。ロシアとは、経済協力費として金を貢いだうえに、北方領土の主権を棚上げした。拉致問題では再三再四「私が金正恩委員長と向き合わなければならない」と発言しながら、一度も実現することなく終わりました。
海外での評判がいい、という声がありますが、当然でしょう。国益を損ない、外国が喜ぶことをやってきたんですから。普通はこういった人物を「売国奴」、「国賊」と呼びます。
保守の論壇も問題です。ビジネス右翼(ビジウヨ)が安倍氏を礼賛する特集をしています。もうかるからですね。安倍氏を本当に信じている信者のような人たちもいる。もともとビジウヨだった人が、礼賛しているうちに、信者になってしまったというような話も聞きます。
安倍氏を神格化する危険な動きもでてきました。ジャーナリストの岩田明子氏が「雨が降りがちな地域で予報も雨だったが、安倍氏が現地に到着した瞬間、雲が切れて夜空に満天の星が広がった。梅雨のシーズンに開催された伊勢志摩サミットや、ほかの外遊でも同様のシーンがよく見られた」(夕刊フジ連載コラム、23年4月6日配信記事)と書いていますが、まるでカルトです。
私がこういうことを言うと、自称保守界隈には「亡くなった安倍さんをいつまで批判するのか」という人がいます。同じようにドイツ人に「いつまでヒトラーを批判しているのか?」と言うことができるのでしょうか。過ちへの批判を忘れると、その歴史を修正しようとする人間がはびこってくるんです。何年たっても、忘れてはなりません。
(聞き手・構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
●適菜収(てきな・おさむ)/作家。1975年、山梨県生まれ。訳書に『キリスト教は邪教です! 現代語訳「アンチクリスト」』、著書に『ゲーテの警告』、『ニーチェの警鐘』、『日本をダメにしたB層の研究』、『日本人は豚になる、三島由紀夫の予言』など多数。