7月8日で安倍晋三元首相の一周忌を迎える。安倍氏の死後、岸田文雄首相をはじめ多くの自民党国会議員が「安倍氏の意思を継承する」などと公言し、安倍氏の政治思想を受け継ぐ姿勢をみせている。しかし、7月に『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)を出版した作家の適菜収氏は「安倍氏は保守ではない」と断言する。三島由紀夫に関する著作もある適菜氏に、改めて安倍氏の思想と保守主義について語ってもらった。
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安倍氏の一周忌に合わせて多くの書籍や特集記事などが出ています。保守を標榜するメディアでは安倍氏の実績を礼賛するような内容がたくさん出てきていますが、改めて安倍氏がどういった政治家だったのか、事実に基づいて、評価しなおすことが重要だと考えています。
私は安倍氏を保守だとは思っていません。むしろその対極にある思想を持ち、これまで日本が積み重ねてきた制度や伝統を壊してきた人物だと考えています。
安倍氏の首相在任時に日本が壊されたと思う象徴的な出来事が3つありました。
1つ目が、安保法制の問題。歴代政権が集団的自衛権は違憲という立場だったにもかかわらず、安倍首相(当時)は自身が設置した「有識者懇談会」に意に沿った提言をまとめさせ、それをもとに集団的自衛権は合憲と閣議決定しました。反対の意見を持っていた法制局長官の首をすげ替え、そして、国会で強行採決しました。
このとき、多くの学者や元最高裁判事などが「違憲」という声を上げていました。これに対し、磯崎陽輔首相補佐官(当時)は「法的安定性は関係ない」と述べていますが、あり得ない発言です。
2つ目が省庁をまたがる大規模な不正が発覚し、責任があいまいになったままであることです。裁量労働制における厚労省のデータの捏造、外国人労働者の受け入れに関する法務省のデータの改ざんがありました。特に象徴的だったのが、森友事件における財務省の公文書改ざんで、安倍氏は「私がかかわっていたら総理も国会議員も辞める」と国会で答弁したにもかかわらず、責任を取りませんでした。