サルトル、ニーチェ、バルトという3人の偉大な思想家たち。この3人に共通するものとは一体何だったのか......パリ第8大学のフランソワ・ヌーデルマン教授はそこに「ピアノ」という視点を投げかけます。



 3人の意外な共通点とは、みなピアノを愛し、そして自らピアノを弾くことにより思考を深めていったということ。ピアノを弾くという習慣は、3人の思想形成に多大な影響を与えたのだと、ヌーデルマン教授は自著『ピアノを弾く哲学者』のなかで指摘します。



「彼らがアマチュアとして(ニーチェなどはプロ並みの腕前だったが)演奏した曲は、振動で彼ら自身を震わせ、身体をそれぞれに異なるリズムへと導いた。そしてそのリズムのなかで、彼らは時間、悦楽、意志、友情などとのかかわり方を築き上げていった。ピアノを弾きながら、目立たないが能動的なやり方で、思想の哲学的輪郭を作り上げていったのである」(同書より)



 なかでもサルトルはメロディーに、ニーチェは音色に、バルトはリズムに敏感だったといいますが、では具体的に、この3人の人物たちとピアノとはどのような関係にあったのでしょうか。



 たとえば「古典文献学者であり哲学者だったが、同時にピアニストであり、作曲家でもあり、プロの音楽家になりたいという夢を生涯もちつづけた」というニーチェ。9歳前後にピアノのレッスンを始めてから、誰かと一緒に連弾したり、誰かのために弾いたりすることにより時に友情を築こうとしたニーチェは、生涯に渡って、どの土地にいても常にピアノを弾ける場所を確保していたといいます。



 さらに、ヌーデルマン教授は次のように指摘します



「ニーチェにとってピアノは書きもの机であり、戦場であって、そこでニーチェはもてるかぎりの情熱を再処理し、絶望や弱点と闘った」(同書より)



 ピアノを通して自らの絶望や弱点と闘い、生への救済をも求めたニーチェにとってピアノを弾くという行為は、人生の中心にあったと言っても過言ではないようです。



 サルトル、ニーチェ、バルトという3人の思想家にとって、それぞれの人生と共にあったピアノの存在。同書では、具体的なエピソードや、その哲学を紹介しながら、ピアノが彼らの思考にどのように影響していったのか、考察がなされていきます。