だからこそモーレスモからは、トーナメントディレクターとしての、そして元トップ選手としての立場から、今回の“失格判定”に関する意見を聞きたいと思った。

 だがこちらの質問に対し、モーレスモは「私の意見は言わない」と笑顔で前置きした上で、次のように続けたのだ。

「誰かが決断を下した後に、他の人が動画を見るのは簡単なことです。判定は、ツアースーパーバイザーと、レフェリーによって下されました。動画を見ることなくコートに行った状態では、他者からの報告によって判断しなくてはいけません」

「そして、女の子がコート上で長く泣いているのを見た時、それが決断を下す根拠になったのでしょう。それは、“事実”なのですから。私はそれが、良いか悪いかを言うつもりはありません。ただ、これは明らかに、グランドスラムのルールブックに則ったことです」

 その上で、「混合ダブルスには継続して出て良いという大会の判断は、彼女にとってポジティブだったでしょ」と元世界1位は言った。

 このモーレスモの回答を受けて“更問い”をしたのは、『ニューヨークタイムズ』の記者である。

「彼女(加藤)がボールを、故意や腹立ちまぎれに打った訳ではないことは、世界中の人が映像で見て知っている。なのに、最も重要な決断を下す人物が映像を見ていないというのは、あまりに馬鹿げていないか?」

 この質問に対し、全仏オープン・トーナメントディレクターは、次のように答えた。

「この件……、つまり動画を見ることに関しては、改善を求める声が既に一部で上がっています。大きな変革になるので、私が『今日変えます』と言えるものではありません。ただ間違いなく俎上に上がる案件ではあるし、テニス界が今後、他の競技で既に用いているテクノロジーを、導入する方向に向かっていく可能性はあります」

 これら一連のトーナメントディレクターの発言を、どう捉えるかは、難しいところではある。

 ただ今回の出来事が、現行のルールの在り方や捉え方に、一石を投じたのは確かなようだ。

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長い歴史を持つテニス界は変わるのか