100年以上の歴史を誇るテニスの競技会では、伝統と対話が尊重され、それらに依拠する“あうんの呼吸”や“以心伝心”が、時に明文化されぬルールの余白を補ってきた。

 だが、テニスのグローバル化とビジネスの拡張もあり、今や競技は“文化”では補えぬ領域にまで及んでいる。テクノロジーの進化も、慣習と現状の齟齬を浮き彫りにし、その隙間をグレーゾーンで埋めているのが現状だ。

 四大大会の中でも、最もクラシカルスタイルを貫くフレンチオープンで今回の論争が巻き起こったのは、ある意味では偶然ではないだろう。

 果たしてテニス界は今後、どのような方向に舵を切るのか――? 
 
 今回の失格判定を巡る論争は、もしかしたら、一つの転換期になるかもしれない。(文・内田暁)