最近ではこの高速カメラの技術を用い、線審を排して電子ラインコールを導入する大会も増えた。ただ、コートの表面がクレー(赤土)で覆われている全仏オープンでは、ボールの落下点が土の上に残るため、電子判定システムは不要として導入されていない。

 いずれにしても現行のテニスルールでは、撮影された映像を審判員やレフェリーが確認し、それをもとに判定を下すことはない。これは、テニスの大会では複数の試合が同時進行しており、すべてのコートにカメラが設置されている訳ではない……という事情も関わっているだろう。電子判定システムにしても、今でこそ全コートに設置されている大会は多いが、かつてはセンターコートなど一部のコートにしか存在せず、選手間から「トップ選手ばかり使えて不公平だ」との声も上がっていた。

 ただそれも今は昔。機材のクオリティや台数に差こそあれ、今では多くの大会で、全てのコートにカメラが設置されている。

 例えば、今回の全仏オープンで加藤の試合が行われた14番コートには、ベースライン後方に2台の“メインカメラ”(一つはリモート、一つは有人)と、コートサイドにも2台のカメラがある。そして、メインカメラの反対側のコートサイドでは、ハンディカメラを手にしたカメラマンが適宜移動しながら撮影しているのだ。

 実際に、国際映像として全世界に配信される動画は、これら複数のカメラ映像を切り変え編集されたものである。ただいずれのカメラでも、試合全体を通じて撮影した動画は存在するはずだ。

 全仏オープン最終日の6月11日、トーナメントディレクターのアメリー・モーレスモが会見を行った。“トーナメントディレクター”とは、会場の設定やイメージ戦略等も含め、大会全体を“ディレクション”する責任者。ただ、審判やレフェリーの資格を要する訳ではないので、ルール施行等に関する決定権はない。昨今のテニス界では、元著名選手がトーナメントディレクターを務めるのがトレンドで、モーレスモも世界1位、2度のグランドスラム優勝を誇るフランスの元人気選手だ。

次のページ
大会側の反応は?