大きな決断をすばやく決めて成功した人は、即決することに価値があると思っているのです。その成功体験が崩れない限りは、人はその習慣を続けるものです。

 また成功体験は、早いうちにしたものほど、その人の考え方に大きな影響を与えます。私も大学卒業後に証券会社に勤めていた頃、上司や先輩たちから「初めての客には必ず、ちょっとでもいいから儲けさせろ。絶対に損はさせるな。儲かっている間に利益を確定させろ」と言われていました。最初にひと儲けしたという成功体験ができれば、投資が面白いと感じ、続けるようになるからです。反対に、投資を始めてすぐに少しでも損をすると、それがトラウマになり「投資をやらなければよかった」というマインドになってしまうのです。

 日本人に投資嫌いの人が多いのは、1990年代初頭からの株価暴落や不動産バブル崩壊時のトラウマが大きいからだと私は思っています。日本人はバブルで大儲けをした後、投資したもののほとんどが焦げ付いてしまい、「失われた30年」と呼ばれるデフレ不況に陥りました。これは政府や日銀の政策が悪かったなど、いろいろな側面があるかもしれませんが、特に残念なのは、日本がバブルの頃、日本以外の海外諸国は日本より景気が悪かったため、日本人や日本企業が世界中のいろいろなものに投資をしたものの、そのほとんどが儲からずに終わってしまったことです。

 一方の中国は、中国がバブルに突入していた頃、世界も同時にバブルでした。そのため、国内外で儲かったお金をさらに投資に回して、どんどん儲かっていきました。この状況の違いが、日本人と中国人の投資マインドを大きく変えたと思っています。

 以前、海外移住の相談に来た中国出身のお客様は、90年代に上海や北京にマンションを3つ、それぞれ500万円くらいで買っていました。それが今、ひとつ3億円ほどになり、10億円近くを持つ資産家になっていました。彼に「5000万円くらいの物件をポルトガルで買えば、ゴールデンビザが取得でき、最終的には永住権や市民権(国籍)が申請できますよ」と伝えると、即決で「じゃあ、買います」とのことでした。過去の成功体験があるからでしょうが、中国系の人の多くは投資に関して、決断が非常に早いという印象を持っています。

 私が見てきたシン富裕層の人々は、基本的に各自の「動物的勘」、直感を信じて行動してきた人が多いように思います。自分が「いいな」「やりたいな」と思ったら、理屈などではなく、取り組んでいるのです。

 その直感は、自分自身でものを判断する機会にどれだけさらされてきたか、失敗や損失などのリスクを前にして、自分ひとりの責任のもとにどれだけ決断をしてきたか、その場数によって磨かれてきています。

●大森健史(おおもり・けんじ)

 1975年生まれ。大阪府出身。大学卒業後、国際証券株式会社に入社し、個人・事業法人・財団法人等の資産運用のコンサルティング業務を担当。留学・旅行業界を経て、ビザ申請や海外生活設計のアドバイザー業務に携わる。2004年6月に家族・親子・退職者・会社経営者・投資家らのロングステイなどのサポート企業として株式会社アエルワールドを設立し、代表取締役に就任。海外移住や長期滞在に関する相談実績は2万人を超える。グローバルに金融資産と居住生活をどうアロケーションするのかなど、投資家・資産家向けの海外生活コンサルティングにも精通し、サポートを行っている。