『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない (&books)』ロバート・ウォールディンガー,マーク・シュルツ,児島 修 辰巳出版
『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない (&books)』ロバート・ウォールディンガー,マーク・シュルツ,児島 修 辰巳出版
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 「幸せな人生」と聞いて、みなさんはどんな人生を思い浮かべるでしょうか。何不自由なくお金をたくさん使える人生? 多くの人から尊敬されるような偉業を成し遂げる人生? それとも今の人生こそがあなたにとっての「幸せな人生」でしょうか。人によって答えはずいぶん違ってくることでしょう。

 では質問を変えて「幸せな人生の条件とは何か?」を考えてみてください。そもそも人によって「幸せな人生」が違うのなら、この質問の答えもバラバラになるのでは、と思うかもしれません。しかしハーバード大学による史上最長の研究「ハーバード成人発達研究」は、ひとつの答えにたどり着きました。その答えは、2023年6月20日(火)発売の書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』に記されています。

 同書は、2000人以上の人生を84年かけて調査した「ハーバード成人発達研究」をもとに、人々の幸福の秘訣を解き明かしています。ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガーと、「ハーバード成人発達研究」の副責任者でありブリンマー大学の心理学教授でもあるマーク・シュルツによる共著です。すでにアメリカやイギリスでは刊行されており、各種メディアで紹介され、「Amazon USA」のLongevity(長寿)部門やFriendship(友人関係)部門で1位を獲得。「The New York Times」でもベストセラーに選ばれました。

 また、ロバート・ウォールディンガーのTEDトーク「何がよい人生をつくるのか」(What Makes a Good Life)は、全世界で4400万回も視聴され、TEDの再生回数ランキングの歴代トップ10にもランクインしています。TEDトークユーザーの中には、先ほどの質問「幸せな人生の条件とは何か?」の答えをすでに知っている人もいるかもしれません。

 「ハーバード成人発達研究」が導き出した、「幸せな人生の条件とは何か?」の答えは、以下のとおりです。

「健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上」(同書より)

 あまりにもシンプルな答えに、「そんなことはもう知っている」と言いたくなるのもわかります。それに、人間関係は多くの人の悩みのタネでもあり、特に近年はそのわずらわしさから逃れるために"ソロ活"が人気を高めているほど。"よい人間関係"のメリットは日に日に薄れているようにも感じます。「他人と関わってもロクなことがない」「一人のほうが気楽だ」と思う人も少なくないでしょう。そこで、同書に記された「電車の中の見知らぬ他人」という実験を紹介します。

「一人で電車に乗っているとしよう。周りには見知らぬ人たちが座っている。車内でできるだけ楽しく過ごしたいなら、選択肢は二つある。近くにいる見知らぬ乗客に話しかけるか、黙ったまま過ごすか? あなたなら、どちらを選ぶだろうか?」(同書より)

 これに対して多くの被験者が誰にも話しかけないほうを選びます。おそらくみなさんもそちらを選んだのではないでしょうか。

「『見知らぬ人に話しかければ不快な経験になるだろうから、黙って過ごすほうがはるかに快適に過ごせるはず』という予測が圧倒的多数だった。自分が何をすれば幸せな気分になり、何をすればみじめな気分になるかを予測したわけだ」(同書より)

 しかし実験の結果、被験者たちの予測は見事に外れました。

「隣の人に話しかけた被験者の大半は、普段の通勤時より気分のいい体験になったと言い、普段は通勤電車内で仕事をしている被験者たちも、隣の人に話しかけても作業の生産性は落ちなかったと答えた」(同書より)

 いったいなぜなのでしょうか。これには、「人間は自分の感情を予測するのが不得手である」ということが関係しています。これは今回の実験に限らず、多くの研究結果から明らかになっていることなのだそうです。

「電車内実験のような短期的状況だけでなく、長期的状況でも同じだ。人は人間関係がもたらすメリットを予測するのがとくに下手だ。人間関係は面倒で厄介だし、何が起こるか予測できないのは事実だ。だから一人でいることを好む人は多い。単純に孤独を求めているわけではない。他者と関わることで起こりうる面倒を避けたいのだ。だが、面倒事を過大評価し、人とのつながりがもたらすメリットを過小評価するのが人間だ」(同書より)

 人間関係で嫌な思いをしたことばかりに意識が向いていないか、これまでに幸せで楽しい人間関係や人とのふれあいで生じる温かな感情も確かにあったはずなのに、それをないがしろにしていないか、それらをよく考える必要がありそうです。「一人が気楽だ」と人間関係を切り捨てるのは早計かもしれません。同書で紹介される「ハーバード成人発達研究」の被験者たちがたどった人生からは、よい人間関係の重要性やメリットなど学ぶことが多くあります。

「自分の人生は今はこんなふうだけど、幸せな人生に必要なものはどこか別の場所にある、あるいは未来にあると思い込むようになる。(中略)ここで種明かしをしてしまおう。幸せな人生は、複雑な人生だ。例外は、ない。幸せな人生は喜びにあふれている......けれど、試練の連続だ。愛も多いが苦しみも多い。それに、幸せな人生とは偶然の賜物(たまもの)ではない。幸せな人生とは、時間をかけて展開していく一つの過程(プロセス)だ」(同書より)

 同書では、第1章「幸せな人生の条件とは?」のほか、先述の「電車の中の見知らぬ他人」の実験が記された第2章「なぜ人間関係が重要なのか」から第6章「問題から目を背けずに立ち向かう」で人間関係の基本的性質を掘り下げ、同書の教訓を日常生活に活かす方法を詳しく説明しています。第7章「パートナーとのグッド・ライフ――隣に寄り添う人とのつながり」以降では、家庭、夫婦や恋愛、職場など、人間関係を種類別に深く掘り下げています。そして最後に、同書の副題でもある「幸せになるのに、遅すぎることはない」につながります。

「幸せな人生は目的地ではないと認識することだ。幸せな人生とは道そのもの、道をともに歩く人たちそのものだ。人生という道を歩みながら、一瞬ごとに、注意を誰に、何に向けるかを決めていこう。週を追うごとに、人との交流を優先し、大切な人といることを選択しよう。年を追うごとに、人生を豊かにし、人間関係を育むことで、人生の目的や意味を見出していこう」(同書より)

 科学的に分析しながらも優しく温かな言葉で導いてくれる同書。現在いい人間関係を築けていないから手遅れだ、などと思わず、同書を手に取ってみてほしいです。厳しくあたっていた人に優しく接するようにしたり、新しく出会った人とよい人間関係を築けるような工夫をしてみたり、小さなことから始めてみようという気持ちになります。「幸せな人生」は今すぐにでもスタートできると同書が何度も教えてくれています。