本書はナショナリズム論などで知られる論客・小英二が、主に2010年以降、社会学や現代思想などの領域で活躍する研究者らと行った九つの対談を収めたものだ。
 いずれのやりとりにも通底するのは対談に臨む小熊の「妥協のなさ」だ。入念な準備のもと若手から大御所まで、対談相手の著作や発言の疑問に容赦なく切り込んでいく。白眉が上野千鶴子との対談だ。デビュー作以降の著作を細かい記述から掘り起こし、思想の核のみならず日本近代思想史における位置づけを本人を目の前に炙りだしてゆく。その手腕は上野をして「何が白日にさらされ、何が問題として残っているかがまざまざと分か」ったと唸らせるほどだ。
 小熊はあとがきでかつて編集者だった経験を踏まえ、対談においては話し手の権威や、立場が近い者同士のうなずきあいを基盤にするのではなく「意見の違う部分を交換して、一人だけでは至れない地点に発展させるプロセス」を重視したと記す。語られた内容のみならず「対談とは何か」という地点まで一考を迫る一冊だ。

週刊朝日 2014年12月5日号

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