歴史を理解する時、英雄の登場や為政者の行動などに背景を求めがちだ。本書はこうした歴史の理解に、自然科学の視点を持ち込むことで読み手の認識を一変させる。先史時代から未来予測まで、数万年単位での気候変動が歴史にどう関わってきたのかを40の話を通じて読み解く。
 例えば、六世紀に領土を拡大していた東ローマ帝国の進撃を止めたのは、地球の裏側の巨大火山の噴火だったと指摘する。ナポレオンがワーテルローの戦いで大敗したのは戦略の誤りではなく、エルニーニョ現象によるものだと推論する。大国の趨勢を左右する事象だけでなく、最高品質の弦楽器であるストラディバリウスの音色や京都のアカマツ林の秘密にも迫っており、話題の幅も広い。
 異常気象は歴史を変えた全てではないが、分岐点となる出来事に影響を与え、文化や生活そのものを変えてきたことがわかる。同時に、本書は温暖化や寒冷化の恐ろしさを改めて教えてくれる。日本のみならず世界で異常気象が相次ぐ今、多くの示唆に富んだ一冊だ。

週刊朝日 2014年10月10日号

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