<ライブレポート>アレサ・フランクリン追悼コンサート【Aretha! A GRAMMY Celebration For The Queen Of Soul】
<ライブレポート>アレサ・フランクリン追悼コンサート【Aretha! A GRAMMY Celebration For The Queen Of Soul】
この記事の写真をすべて見る

 現地時間2019年1月13日、米LAのシュライン・オーディトリアムで開催されたソウルの女王こと故アレサ・フランクリンのトリビュート・コンサート【Aretha! A GRAMMY Celebration For The Queen Of Soul】のライブレポートが到着した。

 年明け間もない1月13日、米ロサンゼルスの名門劇場シュライン・オーディトリアムで行われた故アレサ・フランクリン(2018年8月16日沒)のトリビュート・コンサート【Aretha! A GRAMMY Celebration For The Queen Of Soul】。もともとは現ソニー・ミュージック・エンタテインメント制作部門の要職(CCO)に就くクライヴ・デイヴィスが音頭をとり、アレサの生前にその功績を称えるべく企画していたもので、他界後、11月14日にNYのマディソン・スクエア・ガーデンで行われると報じられていた。ところがNYでのコンサートは立ち消えに。仕切り直され、昨年暮れになって急きょ開催が発表されたのが、LAに場所を移した今回のステージとなる。

 主催者にレコーディング・アカデミーも加わったということで、来たる第61回グラミー賞のプレ・イヴェント的な位置付けにもなったこのトリビュートに召集されたのは、グラミー受賞者およびノミネート経験者、もしくはクライヴ・デイヴィス主宰のアリスタ~Jレコーズにゆかりの深いシンガーたち。映画“マディアおばさん”シリーズでお馴染みの劇作家/映画監督/俳優、タイラー・ペリーの司会進行で、R&Bを中心とした新旧のスターがアレサの名曲を歌っていく。コンサートの模様は3月10日に米CBSでTV放映される予定で、特番用に編集することを前提として撮影がアーティストごとに行われるため、パフォーマンス終了のたびにブレイクが入る。その幕間にはバックスクリーンに次のパフォーマーが歌う曲を示唆するようなアレサのライヴ映像などが映し出しされ、女性解放やソウル・ミュージック発展の象徴にもなったアレサのシンガー/エンターテイナーとしての功績や魅力が語られていく。

 トップバッターを務めたのはジェニファー・ハドソン。白のドレスで現れた彼女は「Think」~「Ain’t No Way」~「Respect」という、アトランティック初期のヒットを3曲連続で熱演。もともとパワフルな声のジェニファーだが、アレサの伝記映画『Respect』でアレサ役を務めることが決まった彼女の歌には、“我こそがアレサの後継者”とでもいった自信が漲っていた。続くケリー・クラークソンはスケジュールの関係か、同じステージで事前に収録された「I Never Loved a Woman (The Way I Love You)」のパフォーマンス映像がスクリーンで流される。その後登場したジャネル・モネイは、煌びやかにデコレートされたスタンドマイクを操りながら「Rock Steady」をファンキーに踊り歌い、その姿はジェイムス・ブラウンを彷彿させた。

 グランド・ピアノが運び込まれて登場したのは、第61回グラミー賞の司会者に抜擢されたアリシア・キーズ。フィルモア・ウェストでのアレサよろしくピアノ弾き語りで披露したのは「Spirit In The Dark」。真っ暗なステージで歌ったのは、「暗闇の中の精霊」という歌の内容を意識してのことだろう。アリシアは続いてSZAをステージに呼び込み、SZAがアンビエントな現行R&B仕様で歌う「Daydreaming」をピアノとコーラスでサポート。さらに2人はアレサも吹き込んだマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの名曲「You’re All I Need To Get By」をデュエットしたのだが、ビートの立ったこのヴァージョンは、メソッド・マンとメアリー・J.ブライジのヒップホップ版リメイクを意識しているようにも感じられた。コラボという点では、ファンテイジアとロブ・トーマス(マッチボックス・トゥエンティ)がアレサとジョージ・マイケルになりきった「I Knew You Were Waiting (For Me)」、ヨランダ・アダムスの歌とコモンのラップでアレサを称え黒人の誇りを謳った「Young, Gifted And Black」も快演。思えばヨランダとコモンはホワイトハウスにてオバマ夫妻の前で「Glory」(映画『グローリー/明日への行進』の主題歌)を披露した関係だが、彼らのパフォーマンスを含め、“オバマ大統領の誕生を祝福したシンガーとしてのアレサ”を改めて思い起こさせる場面があったことも申し添えておきたい。

 歌い出す前から、この日一番の歓声が上がったのがセリーヌ・ディオンだ。サム・クックがオリジナルとなる「A Change Is Gonna Come」をアレサが大きなスケールでカヴァーしたままに歌い上げたこれには、パフォーマンス後にも嵐のようなスタンディング・オヴェイションが待っていた。そして、来たるグラミー賞で5部門ノミネートとなったH.E.R.は、トレードマークのサングラスに、ギターを抱えて「I Say A Little Prayer」をリズミカルに歌いながら異彩を放つ。また、H.E.R.と同じ若手としては、姉妹デュオのクロイ&ハリーがアレサとアニー・レノックス(ユーリズミックス)のフェミニズム・アンセム「Sisters Are Doin’ It For Themselves」をデュエット。前半で姉のクロイがピアノを弾く姿はアリシア・キーズともダブって見えた。そのクロイ&ハリーからすれば祖母の世代となるパティ・ラベルの登場にも大きな歓声が上がる。あの力強く甲高い声で「Call Me」をドラマティックに歌い上げたゴッドマザーぶりには、アレサと同時代を生きたレディ・ソウルとして客席から惜しみない称賛がおくられた。パフォーマンスこそなかったが、同郷デトロイトの友人としてスモーキー・ロビンソンがアレサに捧げるスピーチを行い、思い出を語る姿に、8月の葬儀を見ているかのような気分になったのは自分だけではあるまい。

 アレサの他界後、72年のゴスペル実況盤『Amazing Grace』の映像版となるドキュメンタリー映画の公開が決定したが、それにちなんで設けられたゴスペルのパートも忘れ難い。再登場となったヨランダ・アダムスが「Never Grow Old」、最年長出演者のシャーリー・シーザーが「Mary, Don’t You Weep」、ビービー・ワイナンズが「Give Yourself To Jesus」、そして3人での「How I Got Over」と、『Amazing Grace』で披露されたゴスペル/黒人霊歌の名曲をクワイアとともに歌い、アレサがそのキャリアを教会からスタートさせたことを改めて伝える。このチャーチ・ムードは、終盤でジョン・レジェンドがピアノを弾きながら「Bridge Over Troubled Water」を厳かに歌うあたりまで余韻が続いた。

 他にも、昨年のグラミー賞で最優秀新人賞を獲得したアレッシア・カーラが「Until You Come Back To Me (That's What I'm Gonna Do)」を可憐に、第61回グラミー賞で6部門にノミネートされているブランディ・カーライルが「Do Right Woman, Do Right Man」をルーツ・ミュージック色たっぷりに、当日まで出演のアナウンスがなかったアンドラ・デイはレトロな持ち味を活かして「Chain Of Fools」と「Freeway Of Love」を力強く快唱。コンサートは、この3人にファンテイジアを加えた4人で「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman」を歌ってフィナーレを迎えた。まだまだ歌い足りないといった様子で猛唱するファンテイジアには拍手喝采。客席最前列中央でコンサートを見守るクライヴ・デイヴィスも大喜びだった。

 TV放映の際にはエルトン・ジョンのパフォーマンスも追加されるというが、出演者の多くはアレサの影響下にある黒人女性シンガーで、アレサがソウルの女王であることを改めて伝えるような人選。“マディアおばさん”の口調で笑いをとるなどしながら淀みなくコンサートを進行させたタイラー・ペリーの名司会者ぶりや、故ホイットニー・ヒューストンのバンマスで「アメリカン・アイドル」でも音楽監督を務めたリッキー・マイナーによるディレクションも見事だった。そして、クライヴ・デイヴィス(終盤にスピーチも披露)をはじめ、アレサの遺族、ジョン・レジェンド夫人のクリッシー・テイゲンを含めたモデルやハリウッド・スターなど、招待客まで豪華そのもの。国宝級のシンガーを祝福するに相応しい、観る者にとっても忘れ得ぬトリビュートとなった。

Text: 林 剛

◎公演情報
【Aretha! A GRAMMY Celebration For The Queen Of Soul】
2019年1月13日(日)※終了
米LA・シュライン・オーディトリアム

◎CD情報
アルバム『ベスト・オブ・アレサ・フランクリン アリスタ・イヤーズ』
Available Now
SICP-20339 / 2,057円(tax in.)