『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ
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『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』キャノンボール
『ドミノ』ローランド・カーク
『カナダ組曲』オスカー・ピーターソン

 レーベル特集、一応設立年代順にご紹介しているのですが、今回はちょっと渋め、エマーシー / マーキュリーです。二つ一緒にとり挙げるのは、エマーシーがマーキュリー・レコードのジャズ部門として設立されたという事情があるからです。ちょっとややこしいのは、親会社にあたるマーキュリー自身もジャズ・レコードを制作しているというところ。もちろん両者はプロデューサーが違うので、レーベル・カラーは微妙に異なります。

 まずエマーシーからご紹介すると、なんと言ってもクリフォード・ブラウンの名盤を一手に引き受けているのが凄い。誰しも認める彼らの代表作『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』(EmArcy)はじめ、テナー奏者がハロルド・ランドからソニー・ロリンズに変わった『アット・ベイズン・ストリート』(EmArcy)など、活動期間が短かったクリフォード・ブラウン・マックス・ローチ・クインテットの代表的アルバムはすべてこのレーベルから出ている。

 そして、クリフォード・ブラウンが歌伴を務めた『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』(EmArcy)は、ヘレン・メリルの名前を日本のファンに刻み付けた極め付き。また、自動車事故で相棒を失ったマックス・ローチの代表作『ジャズ・イン3/4タイム』(EmArcy)など、クリフォード・ブラウンがらみの傑作が目白押しです。

 それ以外の人脈に目を向ければ、名高いマイルス・デイヴィス・セクステットのサイドマンたちが勢ぞろいした『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』(EmArcy)が絶品。コルトレーンとキャノンボールのつばぜり合いはまさに見ものです。そして白人勢では、ジェリー・マリガン・セクステットの『プレゼンティング』(EmArcy)が秀逸。快適なアンサンブルからは、ウエスト・コースト・ジャズのエッセンスが感じ取れます。

 さて、親会社マーキュリーはどのような路線かというと、一連のローランド・カーク作品が目を引きます。有名な『ドミノ』(Mercury)はじめ、『ウィ・フリー・キングス』(Mercury)、『カーク・イン・コペンハーゲン』(Mercury)など、異色のマルチ・リード奏者の名演を網羅。このあたりはレーベルの見識を感じさせますね。ヴォーカルに目を向ければ、サラ・ヴォーンがしっとりとクラブで歌う『ロンドン・ハウスのサラ・ヴォーン』(Mercury)が素晴らしい。彼女のクラブ歌手としての実力を知らしめる名唱です。

 ところでマーキュリーにはライムライトという別レーベルもあって、こちらもなかなか渋い傑作を出しています。たとえば、映画音楽で名を成したラロ・シフリンが書いた作品をディジー・ガレスピー・オーケストラが演奏した『ザ・ニュー・コンチネント』(LIMELIGHT)などは、じっくり聴くとなかなか味わい深い。そして大物ピアニスト、オスカー・ピーターソンの『カナダ組曲』(LIMELIGHT)もこのレーベルから出されています。

 エマーシー、マーキュリー、ライムライトと並べてみると、ハードバップ全盛の1950年代から60年代にかけ、ブルーノート、プレスティッジなどとはまた一味違う、通好みの好作品をリリースしていたことがわかりますね。[次回9/22(月)更新予定]

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