人は、指原莉乃についてどう思っているのだろうか。「人によって違う」というのがもっともありふれた、でも正しい答えだ。たとえば私は、指原が所属するHKT48の、指原ではないメンバーが好きで、選抜総選挙などではライバルになる。おまけに指原の芸風を好まない。積極的に「敵」なのだが、一方でHKTというグループを目立たせてくれるというありがたい存在で、つい感謝しちゃったりするのだ。
 そんな指原さんが本を出した。誰に向けて書かれたか。指原ファンに向けてではない。指原嫌いの人、指原と一緒に仕事をするであろう人、の両方に向けてである。「自分が、決して恵まれた存在ではない(イジメで不登校にまでなっていた!)」ことを自覚して、どうしたら自分が恵まれた立場になれるかを細かく書いてある。
 自分がやりたいことをやるのではなくて、相手が求めていることをやる。……言うほど楽な話じゃないよ、と思うが、「MCは焦らないで自分が思っていることをゆっくりしゃべる」「笑顔の挨拶で好感度を貯金」「企画を出す時は絶対無理なのを一つ混ぜておくと本命が通りやすい」「本命をムリだと言われたらとりあえず引き下がる。良さをアピールしようと食い下がると反論してると思われてきっと相手はいい気持ちしない」とか、やけに具体的な対処法などが書いてある。これは一種のビジネス書だ。スタッフには「こういうのがいると現場は助かるぞ」と思わせ、指原嫌いの客には「案外いろいろ考えてるじゃん、見直しちゃった」と思わせる営業。指原は秋元康に贔屓されていいポジションにいる、というのはAKBファンが好んで言う悪口だが、そりゃプロデューサーもこういう子には目をかけるよな、と納得の話が満載。
 だが、秋元康から「面白い」とメールをもらったという指原のブログが載せてあるけど……ウケを狙ったよくあるツマラナイ文章だった。やはり秋元康の依怙贔屓なのか、とふと思ってしまう。

週刊朝日 2014年9月5日号