いろんな仕事で新幹線に乗る。一瞬、窓から富士山が見えることがある。初めて視界に入ってきたときは「おお、俺は日本の中心に来た!」と思いっきり高まったものだ。ぼくのような北海道からはるばるやってきた者にとって富士山とは、まず第一に「銭湯のタイルを通じて疑似体験するもの」。車窓とはいえまさか実物の、リアル富士山を見ることができるとは思わないまま少年時代を過ごした。
8月某日、富士山にアップアップガールズ(仮)が登る。といっても適当な高さの、まあ「山に登っている私」をそこそこ実感できる位置までロープウェイかなんかであがり、観光客がいっぱいいる前でニッコリ笑って記念撮影しておしまい、ではない。東安河原(ひがしやすのかわら)付近の頂上で歌い踊るという。安全面を考慮して、観客は呼ばない。雄大な風景がオーディエンスだ。
夏の間、アプガは40本ものライヴを行なう(単独の2時間に及ぶものから、フェスやイベントの参加まで)。その一方で、酸素が薄くて気温が低い環境のなかで歌い踊れるよう、ジムにこもって猛烈な体力づくりをしている。アプガのトレーナーである足立光氏の考案したマスク(氏はIWGPヘビー級王者、オカダ・カズチカのトレーナーも務める)を装着しながらトレーニングする写真をどこかのウェブで見たが、その姿はまさしく求道者のようであった。
ここでぼくは富士山の気持ちになって考えてみる。高さは3776メートルというのが定説だ。いつどこで誰が計ったのかは知らないが、成長期の子供ではないし、しぼんでいく老人でもないのだから急に高くなったり低くなったりすることはないだろう。♪頭を雲の上に出し……と、小学校だったかの音楽の時間で歌った記憶もある。日本一の高さである。だが「日本一」は当然「世界一」ではなく、ぼくが富士山なら常にライバルはエベレストだ。向こうの高さは8848メートル。富士山の倍以上もある。拳をつきあげて大空に叫んでみても富士山の高さがエベレストのそれに並ぶのは100%に近い割合で、ない。
富士山、くやしいと思うのだ。山頂が常に白いのは、雪という名の怒りの炎だ。ちくしょうエベレスト、ということだ。
その山頂に、アプガが登る。ここでアゲイン、ぼくは富士山の気持ちになって考えてみる。「なに、俺のテッペンでライヴをやるって? そんな無謀なことをするのは誰だ? こちとら耳は肥えてんだ、何千年もの間、日本中のミュージシャンの歌や演奏を日本一高いところから聴いてきたんだ。グルーヴとソウルとブルーズで体じゅうがドス黒いのさ。ぬるい音を出したら承知しねえ。俺は休火山じゃないんだぜ、その気になりゃ、いつだって活火山アタックだ! イラプションOK!!」
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そして数秒のち、ほほえみを浮かべながら富士山は言うことだろう。「でもアップアップガールズ(仮)なら文句はない。それどころか大歓迎だ。第一、最高のグループじゃないか。侍魂、暑苦しさ、モリモリ、おしゃれ番長、破壊、小悪魔、KY。キャラクターも粒揃いだし、曲もいいし、歌唱力もダンスも天下一品だ。努力家ですごくファイトがある。目の中に炎が燃えている。そしてかわいい。かわいいんだ。そんなグループが、俺のテッペンでパフォーマンスしてくれるなんて光栄だよ。エベレストの奴のうらやむ顔が見えるぜ。日本の山に生まれてきて本当に良かったよ。当日は最高のコンディションでアプガを歓迎するから、どうかアプガのみんなも伸び伸びと歌い踊ってほしい。ファンもそれぞれの場所で念を飛ばしているはずだ」
山頂では《全力!Pump UP!!》が披露され、その模様は後日、アプガの公式You Yubeで公開される予定。ぼくらファンはその間、CDで《全力!Pump UP!!》を徹底的に味わおう。8月から始まる単独ツアーのタイトルは「アップアップガールズ(仮) 2014 Summer Live Tour Hot!Hot!Hot!」という。“冷房壊しのアプガ”の真髄を、五感すべてを駆使して体感しようではないか。[次回8/25(月)更新予定]