(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)

 今、ぼくは猛烈な達成感に見舞われている。目を閉じるだけで様々な町並み、匂い、食べ物、人々の表情、空の色、川の流れなどが次々と思い出されては感興を呼び起こす。フェイヴァリット・グループを見るために遠征し、リリースイベントに足を運び、時にはもう、心拍数の上限記録を更新しながら握手会に臨む。それでこんなに幸せな気分を手に入れることができるのだ。

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 4月13日、店の外まで観衆が溢れ出たタワーレコード秋葉原店への登場をもって、アップアップガールズ(仮)の最新シングル「(仮)は返すぜ☆be your soul/Party! Party!/ジャンパー!」のリリースイベントは一段落がついた。4月7日、同所とタワーレコード仙台パルコ店でメンバーがふたてにわかれて同時開催した“超フラゲイベント”から休みなしの7日間。土曜と日曜は1日に3イベントがあり、13日もアプガは「ららぽーと柏の葉」で通りすがりの親子連れを含む人々を喜ばせた後、秋葉原に向かった。なんという忙しさだろう。しかもその前の週に当たる4月5日には盛岡CLUB CHANGE WAVE、6日には仙台Rensaで、降る雪を溶かし沸騰させ蒸発させるようなライヴを繰り広げてオーディエンスを興奮の絶頂に導いているのだ。

“ハーデスト・ワーキング・マン・イン・ショウ・ビジネス”といえば1年に300回の実演をこなしたといわれるジェームズ・ブラウンのキャッチフレーズだが、1年に200回のイベントやライヴをするアプガもまた“最もハードに活動するアイドル”と呼ぶにふさわしい。(※画像は4月11日、池袋・サンシャインシティ内アルパB1内噴水広場で行なわれたリリイベの模様です)

“超フラゲイベント”という言葉については、少しばかり説明が必要かもしれない。この第1回が行なわれたのは2月17日、場所はやはりタワーレコード秋葉原店。『セカンドアルバム(仮)』リリース記念イベント上の、佐保明梨の発言を引用する。
「『セカンドアルバム(仮)』は2月19日に発売なんですね。ということは、その前日の2月18日がフラゲ日となるわけじゃないですか。普通にCDショップではフラゲ日からゲットできますよね。でも、“フラゲ日とは何だろう?”と思いまして……私はそのルールを破壊王として、ひと破壊させていただきまして、今日は発売日でもフラゲ日でもないんですが、一足先にこちらに商品を持ってきました! なので今日はここで、世界中のどこよりも早くアルバムを手に入れることができちゃうんです」

“発売日より2日も早く商品が買える”というアイデアがあまりにも好評だったので、今回のニュー・シングルでもそれを行なったというわけだ。ちなみにこの“超フラゲ”、ほかの誰かがやっているという話を、ぼくはまだ聞いたことがない。アプガが元祖だ。
「少しでも早く、ファンの皆さんに聴いてほしいから」というメンバーの声が実に美しい。アプガにとってすべての楽曲が自信作であり、歌、ダンス、MC、ライヴなどすべての行為が命がけの対象である。磨き抜かれた実力を持つかわいさモリモリの面々が魂をぶつけるようなパフォーマンスを見せるのだ、それを全身全霊で受け止めないでどうするというのか!

 それにしても『セカンドアルバム(仮)』の熱気は、なんなのだ。全曲スタジオ録音なのに、ライヴという煮えたぎる大鍋の中に投げ込まれたような気分になる。そもそも、CDを再生する前から妙な熱が初回盤ジャケットのまわりからほとばしり出ている。
 ただそこにそれを置くだけで、まわりの温度が急上昇する。アイスクリームは溶け、水道ひねれば熱湯が出てガスに頼る必要なし。すぐにぺヤングソースやきそばが賞味できる。「そんなことはありえない」とわかっていても、「でもひょっとして」という気持ちも何パーセントだか起きてくるのが不思議だ。

 そんな罪なやつ、いや、罪なジャケットがアップアップガールズ(仮)の『セカンドアルバム(仮)』である。話題作の常としていくつものCDショップで面出しディスプレイされていたが、「かわいらしいお揃いの衣装を着て、フォト・スタジオでメンバー全員がニッコリ」的なジャケ写があふれるアイドル・コーナーでそれは、明らかに浮いていた。いやいや、それ以前に、これほどまでに熱量を伝えるジャケットは、アイドル界はおろか、日本のポピュラー・ミュージック史上においても相当に希少ではないか。

 洋楽アーティストでいうと、ジョー・コッカー、ビッグ・ジェイ・マクニーリー、ボ・ディドリーなどのジャケット写真に通じるエナジーがある。難しいこと一切なし、聴けば体が動き、一緒に口ずさみたくなる、ラフでタフでソウルフルな、エンタテインメントのど真ん中。それをパッケージしたディスクの“顔”として、このジャケット・デザインはまったくもって絶妙であり、ぼくがグラミー賞の選考委員ならば、一もニもなく最優秀ジャケット部門にゴリ押しするだろう。だいいち、7人グループなのに、そのなかのひとりの、しかも目線すら来ていないフォトをアップにする(初回盤は古川小夏、通常盤は新井愛瞳)という発想が痛快だ。タイトルは『セカンドアルバム(仮)』なのに、“アップアップガールズ(仮)は一体何と戦っているんだっ!”というキャッチコピーが大きな字で印刷されていて、こちらが正式な題名なんじゃないかと思ったことも一度や二度ではない。
 はっぴいえんどのファースト・アルバムが“ゆでめん”と通称されるように、アプガのセカンドも“アップアップガールズ(仮)は一体何と戦っているんだっ!”という別称で親しまれることになるのかもしれない。

『セカンドアルバム(仮)』にはそこで初めて公開されるナンバーも(リミックスも含めて)いくつかあり、それが聴けたのも前回のリリイベの醍醐味だった。手持ちのメモを見ると、まだ肌寒かった各会場で《チェリーとミルク》、《ストレラ~Straight Up~(fumou remix)》、《ワイドルセブン(y0c1e Remix)》、《あの坂の上まで、》などが日替わりで披露されている。この形での楽曲パフォーマンスは、現在おこなわれている全国ツアー「アップアップガールズ(仮) アプガ第二章(仮) 進軍~中野に向かって~」の中では行なわれていないので、リリイベ参加者は本当に貴重な瞬間を目撃したことになる。
「アプガはライヴだけではなくリリイベも見逃すべからず」とはつまり、こういうことなのだ。

《チョッパー☆チョッパー(Panda BoY Remix)》は、リリイベに先立ち2月16日に恵比寿リキッドルームで行なわれた「@JAM the Field vol.5」で初披露された。この日はまた、《アップアップタイフーン》のバック・トラックに歌入りのものが(なぜか)使われていて、森咲樹の語り“ライヴで伝えるアプガの思い”がダブルトラッキングされて耳に届き、さらに“アプガですからー”という古川小夏のシャウトがディレイのかかったような状態で響いて客席の一部から「おおっ!」という驚きの声があがったのをぼくは鮮やかに覚えている。[次回5/26(月)更新予定]