ベストセラーの定番はダイエットと英会話入門、そして整理術だ。共通しているのは楽で簡単で即効性があること。しかし、繰り返しこの種の本が出てくるのは、いずれも長続きしないからだ。
付け焼き刃的な小手先のテクニックではだめだ。昔、「くさいニオイはモトから絶たなきゃダメ!」となにかのCMでいっていたけど、なにごとも同じだ。
『片づけの解剖図鑑』は整理整頓のハウツー本ではない。整理しやすい家をつくるにはどうすればいいのかという本。分類するなら建築書である。しかも、考え方について素人にも易しく図解している。これから家を建てよう、リフォームしようという人は必読だ。著者の鈴木信弘は横浜市に事務所をかまえる建築家で、これまで100件以上の住宅を設計した。
家づくりは収納を考えて、とはよくいわれることだ。でもたいていの人は舞い上がっているから、目立つところを優先してしまう。たとえば本書に、掃き出し窓を大きく取ったリビングの例が出てくる。素人は壁よりも窓を優先したくなる。明るいし、庭も眺められるし、と。ところがリビングには大型テレビだのソファだのチェストだのと、置くものがいっぱいある。片づけやすさを考えると、壁面が多い部屋の方がいいのだ。
キッチンもそう。ひところ流行った対面型(アイランド型)は鍋釜包丁類の収納場所に困る。食洗機も場所を取るし。そこで著者が提案するのは壁面も使ったL型などの準対面型。工夫次第でなんとかなるし、このアイデアを出すのが建築家の仕事だ。
ところで、ぼくの家はよく片づいている。ただしぼくの書斎以外は。書斎は本棚から本があふれて悲惨なことになっている。増殖のスピードに整理がついていかないのだ。心地よい住まいのためには「片づけやすい仕掛け」も必要だけど、片づけるための時間も必要だ。著者には次に片づけの時間管理術の本を書いてほしい。
※週刊朝日 2014年4月18日号