PANDORA(小室哲哉×浅倉大介)音楽のあらゆる魅力と可能性を見せた夜……最後の曲は「永遠と名づけてデイドリーム」
PANDORA(小室哲哉×浅倉大介)音楽のあらゆる魅力と可能性を見せた夜……最後の曲は「永遠と名づけてデイドリーム」
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 小室哲哉が愛弟子・浅倉大介と結成したPANDORA。新たな音楽の可能性を示すユニットとして動き始めた彼らがこの冬、初ミニアルバム『Blueprint』のリリースに先駆けてビルボードライブにて衝撃的なアクトを繰り広げた。
PANDORA(小室哲哉×浅倉大介)ライブ写真(8枚)

<小室哲哉35年の歴史におけるラストステージになるのかもしれない>

 あらゆる音楽家や著名人、音楽ファンが連日にわたって一人のアーティストへの意見や想いを述べ続けるという、近年稀に見る社会現象を巻き起こした“小室哲哉、引退”の報道。その以前から開催が決定していたビルボードライブ公演は、本人の「現在引き受けさせていただいているお仕事を全うさせていただくことが許されるのであれば期待に応える」というコメントもあったように、予定通りに東京と大阪の会場にてそれぞれ開催された。無論、ファンの想いは複雑。これが小室哲哉35年の歴史におけるラストステージになるのかもしれないと思えば、涙も溢れて当然だ(事実、会場には涙を隠せない観客が多数いた)。

 しかし、そんなウェットなムードとは相反して、僕らの目の前に現れた小室哲哉と浅倉大介は憂えている様子もなく、まさかの客席の間を通って登場するファンサービスから始まり、ステージに到着すると互いにアイコンタクトを取りながら、この両名が日本に浸透させたと言っても過言ではないシンセサイザーの名機たちに囲まれながら、アーバンな雰囲気全開のビルボードライブで耳にする音としては異例とも言える、プログレッシヴな爆音シンセセッションをド派手に轟かせていく。まるで音楽を初めて手にした子供のように、どこまでも無邪気に。小室哲哉インタビューでピンク・フロイド等プログレの話題になると、取材時間が決まってオーバーしていたことを思い出す。なお、小室哲哉と浅倉大介がビルボードライブ公演で用いたシンセサイザー含む機材リストは以下の通り。

◎小室哲哉機材リスト:
Moog Piano Bar
Apple MacBook Pro
Focusrite Scarlett 2i4
Roland Fantom-G6
Access Virus Indigo 2 Redback
Dave Smith Instruments OB-6
Nord Lead 3
Line6 DL4
Pioneer DJM-900 NXS x 2
Apple MacMini
MOTU 828 mk3 Hybrid
Apogee DA-16X

◎浅倉大介機材リスト:
Arturia MatrixBrute
Roland JD-XA
YAMAHA MONTAGE7
Roland JUPITER-80
Roland SYSTEM-8
Studiologic Sledge
Roland Fantom-G7
Roland JD-Xi
PioneerDJ TORAIZ SP-16
novation Circuit
PioneerDJ RMX-1000
PioneerDJ RMX-500
BOSS RC-50
MACKIE802VLZ4
MACKIE1604VLZ

<globe「Precious Memories」~安室奈美恵「Can You Celebrate?」>

 その後、PANDORA『Blueprint』収録曲であり、かの【ULTRA JAPAN】でも会場を扇情した「Shining Star」でレイヴナイトを演出すると、浅倉大介は水を得た魚のように大はしゃぎ。演奏だけでなく全力のボディランゲージでも観客を煽っていく。そしてライブは最初のMCへ。小室哲哉が静かに口を開く。「PANDORAのライブに集まってくれて本当にありがとうございます。オープニングはね、もう(浅倉大介とは)何十年と一緒にやっている仲なんで、なんとなく合っててなんとなく違ってる感じで(笑)。で、その後の曲は、去年の秋ぐらいに2人で作った「Shining Star」という曲でした。次の曲は2人で作った2曲目じゃないかな。1日ぐらいで出来ちゃったんですけど、聴いてください。「proud of you」という曲です」もう座って食事しながら聴いているほうが間違っているんじゃないかと思わせるほどの、爆発的なダンスミュージック。痛快すぎて笑えてきた。

 しかし次のブロックでは「せっかくビルボードライブ東京で、せっかくピアノもありますんで、ピアノソロを」と、小室哲哉はグランドピアノのもとへ。自身のソロワークスではもちろん、TM NETWORKやglobeのステージでも幾度となく披露され、その度にファンの涙腺を緩ませてきた「TK solo」だが、この日のソレは歴代最も聴き手の胸を締め付ける内容となった。何故なら彼が奏で出した旋律は、globeの「Precious Memories」。「学生の頃のはなし……♪」とKEIKOの歌声は聴こえてこなくとも、その音色のひとつひとつがあの頃よりたしかに大人になってしまった人々の心に沁みない訳もなく、そのタイトル通りの感慨をもたらした。しかし曲はこれで終わらない。流れるように聴こえてきた旋律は、奇しくも同じ2018年に引退することを表明している安室奈美恵の「Can You Celebrate?」。音楽の受け取り方は人それぞれ。しかしこの2人のタッグによって人生を彩られた世代からすると、まるでかつての教え子の旅立ちをお祝いしているかのようにも感じ取ることができた。

 それはきっとピアノを奏でる姿がエモーショナル過ぎたから、そんな師の姿を見つめながら音色を重ねていく浅倉大介の姿もまたドラマティック過ぎたからだろう。TMのサポート時代から小室哲哉を「先生」と慕ってきた愛弟子が、その先生の代表曲を共に奏でている。このシチュエーションだけでも2人のファンにとっては堪らなかったはずだ。

<物理的な規模でなく感性的な規模を膨らませていくフェス>

 「2月7日にPANDORAのアルバムが出ます。『Blueprint』という……これは“青写真”という意味ですよね? まだPANDORAは“青写真”ですよね?」と無邪気に先生に尋ねる浅倉大介も印象的だったが、そんなアルバム紹介から披露された「Aero dynamics」がまた凄まじかった。小室哲哉も「ちょっと長いです。10分、15分ぐらい……それ以上? 長く感じる方、あっという間に感じる方、それぞれいると思うんですけど、いろいろな映像をイメージして頂きながら聴いてもらえるといいかなと思います」と語っていたが、小室哲哉×浅倉大介の才能を何の制限も条件もなく自由に爆発させていい。となったら生まれるのだろうなと思わせる、若くしてシンセサイザーに目覚めた2人によるプログレ? オーケストラ? いや、これは新感覚のフェスなのかもしれない。一箇所に大勢のアーティストが集まって音楽を奏でるお祭りがフェスの概念であれば、たった2人だけで無数の音を集めて次々とお届けしていく、そして小宇宙を生み出し、物理的な規模でなく感性的な規模を膨らませていくという発想で成立させるフェス。

 それはアンコールで「僕たちは宇宙が好き」という言葉から披露された「Inst~未知との遭遇~Jupiter」も同様。音楽家が芸術家であることを思い出せる、実に画期的な音楽表現がそこには完成していた。

<まさかの本人ボーカルでの披露「永遠と名づけてデイドリーム」>

 90分という限られた時間ながらも音楽のあらゆる魅力や可能性を見せた【PANDORA 2018】。これだけの意味深い音楽活動が止まってしまうのは、ファン的感情を抜きにしても音楽シーン……いや、音楽そのものにとっても大きな損失だと思うゆえ継続していってほしいと願う。その想いは、同公演のラスト。小室哲哉がリクエストされたから仕方なく……みたいなテンションで照れくさそうにあの曲を歌ったことで、より強くなった。「永遠と名づけてデイドリーム」。近年は同所で小室哲哉のピアノと共に坂本美雨が歌っていたが、この日はまさかの本人ボーカルでの披露。時折声を震わせながらも、それでも最後まで気持ちを込めて弾き語る姿が何とも愛おしかった。

 どれだけ泳げば 君に逢える――― こんなにも音楽を愛した2人が再び揃って音楽を奏でてくれる日が来ること、また今夜のような夢を見せくれること、それを願わずにはいられない公演であった。

取材&テキスト:平賀哲雄
撮影:Yuma Totsuka(1/26東京公演)・Kenju Uyama(2/3大阪公演)

◎ライブ【PANDORA 2018】
2018年01月26日(金)Billboard Live TOKYO セットリスト:
01.Opening
02.Shining Star
03.proud of you
04.TK solo ~ Precious Memories
05.Can You Celebrate?
06.Aero dynamics
07.Be The One
En1.Inst~未知との遭遇~Jupiter
En2.永遠と名づけてデイドリーム