今年2月にデビュー・アルバム『ヒューマン』で衝撃的なデビューを飾った新世代ソウル・シンガー、ラグンボーン・マン。今夏開催される【FUJI ROCK FESTIVAL '17】への初出演も決定し、そして明日(6月7日)には『ヒューマン』の国内盤がリリースされる。この国内盤発売を記念して、ラグンボーン・マンが自身の生い立ちや目指すアーティスト像、そして新作アルバムに込めた思いについて語った日本独占インタビューが公開された。
――とても素晴らしいキャリアのスタートを切った――と言えますが、とは言っても、実はあなたは長いこと音楽活動を続けてきたんですよね。
ラグンボーン・マン:そうだね。
――なので、まずはあなたのこれまでの足跡を簡単に辿り直させてください。英南東部サセックス州にあるアックフィールドという町で、非常に音楽好きなご両親の家庭に育ったとか?
ラグンボーン・マン:ああ。確かに両親は音楽好きだったね。まだほんのガキだった頃から、音楽に囲まれて育ったんだ。両親は家でしょっちゅう音楽を流していたし、あれは俺にとってほんと良い影響だったよ。
――あなたはとてもカリスマのある歌手だと思うんですが、そんなあなたがもっとも敬愛するシンガーと言えば誰でしょう?
ラグンボーン・マン:そうだな……アリーサ・フランクリンみたいな歌い手たちだね。
――なるほど、古典的なアーティストですね。
ラグンボーン・マン:うん。俺はとにかくビッグな声そのものが大好きだし、かつ、ステージでもすごく優れた存在感のある、そういうシンガーたちが好きだな。要するに、ギミックや仕掛けは一切なしで、その人本人と良い声だけで成り立っているアーティストが好きなんだ。
――2012年に、あなたはギターの弾き語り曲も含む自主制作盤『Bluestown EP』を出しました。この作品からは「ダイ・イージー」がアルバム『ヒューマン』にその新録ヴァージョンが収められていますが、やはり今のあなたの、ラグンボーン・マンの起源はあの作品にあった、ということでしょうか?
ラグンボーン・マン:ああ、そうだったんだろうね。ある意味、今の俺の始まりがあそこにあったんだと思う。もっとも、『Bluestown EP』は録音の質がマジにひどい作品なんだよな……だからほんと、ごくごく低予算で作った作品なんだ。ところがあの作品は、それと同時にある種の“始まり”を記すものでもあったんだ。ということは、俺にとっては重要なリリースだったことになるけども、うーん……ぶっちゃけ、今あの作品を聴き返すと、我ながら「あー、こりゃいかん! ノー!」と感じちゃうんだけどね(苦笑)「いい出来とは言えないだろう、これは!」みたいな。
――アルバム『ヒューマン』のプロデュースにも参加し、“バスティルの第五のメンバー”とも言われ、かつあなたの所属するレーベル:<Best Laid Plans>の主格でもあるマーク・クルーとの出会い、彼とのコラボレーションが始まった経緯を教えてもらえますか。
ラグンボーン・マン:マークとは、同じ学校に通ってたんだよ。13歳頃だったかな、学校で一緒にバンドをやってた仲でね。
――わー、それは可愛いなあ(笑)
ラグンボーン・マン:うんうん、たしかに可愛らしいよな……(照れ笑い)ただまあ、俺たちのバンドがプレイしてた音楽そのものは、キュートでもなんでもなかったんだけどさ!(笑)
――(笑)
ラグンボーン・マン:アッハッハッハッ! で、そこから何年も経って、その頃以来俺たちは長いこと音信不通だったんだよね。ところが、彼はザ・ラム・コミッティーや『Bluestown』といった作品で俺の活動を知って、それらを通じて、縁が復活したんだ。あれは、彼がバスティルの1枚目のアルバムを作り終えたばかりの頃だったと思うけど、そこで久々に再会してね。で、彼の方から「どう、よかったら、もっと曲を書いてみないか?」と声をかけられて、それで一緒に曲を書いていって。そこで書いた曲が、『Wolves EP』(2014)になっていったんだよ。
――マーク・クルーとの連携を経てEPやシングルも出してきたわけですが、デビュー・フル・アルバムになる『ヒューマン』が形になる、その勢いはいつ頃から始まっていたんですか?
ラグンボーン・マン:そうだな……もっとも、アルバムに入れた曲のうち、何曲かは長いこと存在していたんだけどね。でも、このアルバムが始まったのは2015年頃だったんじゃないかな? その頃から、俺は“アルバム向け”に曲を書き始めたんだ。要するに、アルバムを作るってことを念頭に置いて曲を書き出したのはその頃で、だからあの時期あたりから「もしかしたら自分のアルバムを出せるかもしれない」ということになってきたたから曲を書き始めるかって思ったんだ。
――あなたにとっては“真の意味でのアーティスティックな声明文”とも言えるこのファースト・アルバムで、あなたがもっとも聴き手に伝えたかった、こだわったのはどんなこと?
ラグンボーン・マン:とにかく、パーソナルなアルバムにしたかったね。人々にアルバムの楽曲に耳を傾けてもらい、俺が曲にこめた意味が聴き手にちゃんと伝わる、そういう作品にしたかったんだ。たとえば今、ファンやリスナーに会っておしゃべりしていて彼らの話を聞くと、分かってくれてるみたいでね。曲の意味をとてもよく理解してもらえてるみたいなんだ。で、この作品で目指したメインなことというのは……たとえば楽曲から様々なプロダクションをすべて取り去って、仮にピアノ1台だけの伴奏でその曲を演奏しても成り立つもの。もしもそういう曲を作れたんなら、この作品で自分がやろうとしたことを達成できたってことじゃないかと思う。なんの支えもなくても、曲そのものがちゃんと立つもの。
――「最注目の新人」に贈られるブリット・アウォードでの2冠受賞、英BBCによる期待の新人ランキング<BBC Sound Of 2017>で2位と、昨年の後半からアルバム『ヒューマン』のリリース(英原盤リリースは2月)まで、野火のようにバズが広がりましたよね。長く活動してきたあなたにとっては突然の注目だったと思いますが、当時はどう感じていました?
ラグンボーン・マン:そうだな……だから「俺の音楽を知っているのは、俺を個人として知っている人たちだけ」という状況から一気に変化したわけだよね。でまあ、そうやって一部の人しか自分を知らないって状況は、かなり居心地がよくてね。ってのも、普通にそこらの通りを歩いていても、誰も俺のことは知らないし、だから注目も浴びないわけで(笑)ところが、その状況は今となってはちょっと変化してしまった。たとえば、さっきも高速のサービス・エリアに下りて休憩を兼ねて何か食い物を買おうとしたら、それだけでも5枚くらい写真を撮られたくらいなんだ。だから、今や俺の周囲の状況はやや変化したわけだけど、同時にそれも良いことだなって思ってるんだ。ってのも、人々が俺に近寄ってきて「あなたの音楽、本当に好きなんですよ!」なんてあたたかい声をかけてくれるわけだから。中には、俺の書いた曲が彼らにとってどんな意味を持つのか、どうして彼らには大事なのか、といったことを説明してくれる人もいるし、それってやっぱりとてもスペシャルな経験だよな。
――で、シングル「ヒューマン」を初めて聴いた時、私はふとツェッペリンの「カシミール」と、あの曲の変奏が使われた映画『GODZILLA』(1998)を思い浮かべたんです。それくらい、まさしく”怪物級のヒット”で、私が住んでいるロンドンのエリアでも通りを走るカーステから流れて来たり、階上の住人がしょっちゅう爆音で流してるくらいのすごい人気なんですが、この曲の成り立ちを教えてもらえますか?
ラグンボーン・マン:あれは、俺と、俺の友人のジェイミー・ハートマンって奴がいて、俺たちは南ロンドンのブリクストンにスタジオを持っていたんだ。で、そのスタジオにしばらく詰めてふたりで曲作りに取り組んでいたんだけど、その際にふたりで交わしていたちょっとした会話、そこからあの曲のアイデアが浮かんできたんだ。彼にはもう、ちょっとしたメロディのアイデアがあったんだよ。で、そうやって色々とやっていくうちに、たまたま「みんな、ちょっと不平や文句を言い過ぎじゃないかな?」って話題になったんだ。だから、何かとブーたれたり文句を言いがちだけども、俺たちって実はかなりラッキーな立場の人間なんだなって思ったんだ。だって実際のところ、俺たちには人間が生きるのに必要なものは、少なくともすべて揃っているわけだし。ところがよくよく周りを見回してみれば、そうした基本的なニーズすら満たされていない人たちは世の中にいくらでもいる。そう考えれば、あんまり不平や文句を垂れるべきじゃないと思うんだ(「ヒューマン」のコーラス部には”本当の意味で厄介な問題ごとを抱えている人だっている/運の尽きてしまった人だっている/中にはそれらを俺が解決できると思っている人もいるけど/なんてこった!/俺はとどのつまり人間に過ぎないんだ/だから責めないでほしい”というフレーズがある)。あの曲は、そうした考えから生まれたものだったんじゃないかな。
――あなたのとんでもない声のパワーが発揮されているアルバムの他の曲と言えば、シンプルなバッキングの「オデッタ」や「グレイス」が素晴らしいなと思っています。
ラグンボーン・マン:ありがとう!
――で、その「オデッタ」は、あの、歌手のオデッタ(1930−2008。アフリカ系アメリカ人のフォーク歌手/活動家)に捧げた歌なのでしょうか?
ラグンボーン・マン:いやいや、そうじゃなくてあれは実は俺の友だちの娘さんのことを歌っているんだ。俺のいちばんの親友のひとりに娘が生まれて、その子の名前がオデッタで、あの曲は彼女についての歌だよ
――なるほど。あの歌詞の意味も、それで納得できました。このアルバムで、あなたがソングライターとしてもっとも誇りに思っている曲は?
ラグンボーン・マン:んー、そうだね、今話に出た「オデッタ」が、自分ではいちばん誇りに思える曲だと思う。というのもあの曲みたいに”自分が求めた通りそのままに、言いたいことをとても上手く表現できた”と感じられる曲を自分が書けたのは、たぶんあれが初めてだったと思うから。あの曲は一編のストーリーのようなものだし、自分にはそこに描きたいと思った事柄をすべて捉え、曲に含めることができたんだ。
――ブルーズ、R&B、ヒップホップ等々、アルバム『ヒューマン』ではあなたの持つ多彩なポテンシャルが見えたわけですが、これから音楽的に、アーティストとして、どう育っていきたいですか?
ラグンボーン・マン:そうだなぁ、とにかく、”これひとつのジャンル/スタイルだけ”って風に固まりたくないと思ってるんだ。とは言ったって、次のアルバムをどうしたいのか、自分でもまだはっきりわかっちゃいないんだけどね。ただ、1枚目とは違う内容になることだけはわかってるんだ。人々はよく、「その人間には通るべき、定められた道がある」みたいなことを言うわけだよね?要するに、音楽的にあらかじめ決まった車線/コースに留まっていなさいと。ただ、俺はそういう考え方を信じちゃいないしね。どの車線を通るかは俺が自分で決めることだし、どんな音楽をやるかも自分で決めさせてもらうよ。それが、果たしてもっとアコースティック寄りな作品になるのか、あるいは逆にヒップホップ色の強い作品になるのか、それはまだ自分にもわからないんだけどさ。ただ、とにかく1枚目と同じってことはないと思ってるよ。
――フジ・ロックでの来日も決まっているところで、日本に関していくつか質問させてください。あなたはインスタなどに猫ちゃんとの写真(愛猫のパトリシア=愛称:パティ)を挙げていますが――
ラグンボーン・マン:ああ、うんうん!
――猫はお好きですか? あなたは猫派、あるいは犬派?
ラグンボーン・マン:いやまあ、動物はなんでも好きなんだけどね(笑)ただ、俺たちの飼い猫のパティは俺とガールフレンドにとって非常に大事な存在だよ。
――ちなみに、日本に猫カフェがあるのをご存じですか?
ラグンボーン・マン:いや、知らない。それってなんだろ?
――日本はペット禁止のアパートが多いんで、猫が好きでも猫を飼えない、そういう人たちが猫や子猫たちと遊べる場としてのカフェがあるんですよ。
ラグンボーン・マン:えー、マジで!?それってすごいな!
――日本に行った際に、機会があれば猫カフェに行ってみたいですか?(笑)
ラグンボーン・マン:っていうか、日本に着いたら真っ先に行きたい!(笑)
インタビュー:坂本麻里子
◎来日情報
【FUJI ROCK FESTIVAL '17】
日程:日程:2017年7月28日(金)~30日(日)
会場: 新潟県湯沢町苗場スキー場
詳細: http://www.fujirockfestival.com/
◎リリース情報
デビュー・アルバム『ヒューマン』
2017/06/07 RELEASE
<国内盤>CD
SICP-5321 2,200円(tax out.)
国内盤のみボーナス・トラック3曲収録