撮影・原田和典
撮影・原田和典

 今年は日本のビートルズ・ファンにとって「当たり年」だった。春にはリンゴ・スター、夏にはピート・ベストが来日し、11月にはポール・マッカートニーが11年ぶりに東京ドームで公演した。ぼくは全部見た。

理由その1:ビートルズが好きだから。
理由その2:アップアップガールズ(仮)のイベントやライヴとかぶっていなかったから。

 たとえ相手がビートルズの生き残りであっても、同日同時刻にギグがぶつかったならば今の自分はアプガをとる。40数年前のジョン・レノンの発言を意識するなら、今の自分にとってはアプガの方がポピュラーなのだ。

 今月も何度、足を運んでは心の底を揺さぶられただろうか。「アプガ(仮)」と書かれた見えない刺青を全身に彫られているような感じだ。それと同時に、メンバーに対して「残念だなあ。こんなすごいパフォーマンスを客席で見ることができないなんて」と思う。かみくだいていおう。アプガの7人は自分たちがステージに立っている限り、客席からおのれの演唱を見ることができない。自分たちがどんなに鮮やかな歌とダンスと、ゆかいなMCでファンを魅了しているかを客観的に知ることができない。そこでぼくは思うのだ。ああ、オレはアプガじゃなくてよかった、だって客席でこんなに素晴らしいパフォーマンスを見ることができるのだから、と。

 目下の最新シングル《Starry Night/青春ビルドアップ》のリリースイベントは、10月30日「マルイシティ渋谷 1F店頭プラザ」、31日「タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO」、11月1日「ダイバーシティ東京プラザ フェスティバル広場」、2日「大宮ステラタウン」、3日「タワーレコード新宿店7Fイベントスペース」と「町田ターミナルプラザ イベントステージ」で開催された。ぼくはマルイシティ、タワレコ渋谷店、町田ターミナルに行くことができた。

 マルイシティでは、あまりにも熱いアプガ・ファンの声援で渋谷区全域が吹っ飛んでしまうことを危惧してか、「声を出さないで応援してください」だったか「コールは控えめに」だったか、何かそういうアナウンスが事前にあった。よって声を出さずにステージをじっと見て、たまに手拍子を入れるという形の観覧になる。曲目は《Starry Night》、《バレバレ I LOVE YOU》、《ストレラ!~Straight Up!~》、《青春ビルドアップ》(この日ライヴ初公開)。ちょっとシックというか、飛んだりはねたりしないアプガだ。衣装は確かジャケット写真と同じ。これも彼女たちのアイドル度数を高めていた。マルイシティのステージは道路に面している。だから流れてくる音を耳にした通りすがりのひとたちが「何をやってるんだろう?」と身を乗り出しながら観覧スペースに入ってくる。ぼくはその光景を見ながら、このうちの何割かが「アプガなしでは生きていけない」状態になる日は決して遠くないと心の中でうなずいた。

 翌日はタワレコ渋谷店だ。ここはアプガいわく「ライヴハウスのような気分で歌える場所」。今回も火の出るようなパフォーマンスを味わわせてくれた。10月31日といえばハロウィン、ということでメンバーそれぞれが趣向をこらしつつ登場。

仙石みなみ:巫女(あだなが「みーこ」なので)
古川小夏:ピンクの全身タイツ+アフロのかつら
森咲樹:保育園児
佐藤綾乃:みつばち(「みなさんを刺しまくってハートをしびれさせる」と宣言)
佐保明梨:チャイナドレス(特別に“カンフーの型”を披露)
関根梓:魔女っ小悪魔
新井愛瞳:赤の侍コスプレ

 まさしくアップアップガールズ(仮装)である。演目は《青春ビルドアップ》、《SAKURA DRIVE》、《Beautiful Days!》、《Starry Night》。今回のシングルの雰囲気にあわせてロマンティックでメロウな曲を集めていたが、その中に燃えるようなガッツを感じさせるのがアプガだ。とくに全身タイツで暴れ回り、アフロを振り乱しながらかわいらしい歌詞を熱唱する古川小夏には、さしものアプガ・ファンも相当強いインパクトを受けたのではないかと思う。
 この日はまた、「各メンバーが7都市に分散して、全国キャンペーンを行なう」ことも発表された。これについては文章後半で触れたい。

 11月3日、ぼくは府中刑務所の文化祭を見たあと、町田に向かった。地図を参照すると上から下に移動すればたいした距離ではないのだが、電車を使うとなると大きく迂回することになる。しかし、開演には間に合った。アプガのメンバーは新宿からの移動だ。ステージは駅の構内(?)に設置されていた。だから不特定多数のひとが「何をやってるんだろう?」と入ってくる。何人かはそのまま残ってじっとパフォーマンスを見ていた。アプガ自体が持つ素晴らしさ、楽曲のよさが“いちげんさん”をひきつけたのだ。
 後ろには小さな滑り台やおもちゃが置いてあって、子供たちが遊んでいる。アプガの歌が始まっても女の子はとくに変わらず遊びを続けていたが、男の子は滑り台の上に乗って体をゆらしたり、横からアプガの姿を見ている。あと十年もしたら、「人生で初めて好きになったアイドルはアプガでした」「アプガがぼくをアイドル・ファンにしました」と語る少年が町田から出てくるかもしれない。
 新井愛瞳お気に入りの《You're the best》(未CD化楽曲)が歌われたのにも驚いた。ぼくがこれを聴いたのは、5月の香港で通常公演の間に行なわれたファン・ツアー限定イベント以来、約半年ぶりだ。

 アプガを求める旅は続く。11月10日の昼、ぼくは「タワーレコード上田店」にいた。長野県上田駅から徒歩で約20分、巨大なショッピングモールの2階。ここでアプガのトークイベントがあったのだ。もちろん自分がここに降り立つのは初めてだ。アプガはいろんな場所でイベントをする。それを追いかけることで、これまで行ったことのなかったいろんな都市の風景を見ることができる。新しい風景や空気に触れることができる。アプガよありがとう、ありがとうアプガ。心の叫びが信州の山中に響きわたる。
 イベントでは地元出身の関根梓が、他のメンバーにクイズを出す形で進められた。信州のゆるキャラである“アルクマ”のイラストを全員で描く、というコーナーもあった。上田駅を降りてすぐに目に入ったのが、このアルクマの巨大なイラストだ。くまモン、リラックマ、外タレではプーさんなど、いまのゆるキャラ界は一種の“クマ戦国時代”だ。その中でアルクマがいかに存在感を打ち出していくか。アプガの今後も楽しみだがアルクマの今後も楽しみな私だ。

 夕方からは長野駅近くの「CLUB JUNK BOX」で行なわれた開店14周年記念アイドル・イベント、「NAGANO IDOL BOX」に出演した。この8月、アプガは単独ライヴハウスツアーの初日をここで飾っている。アプガにとってもツアーを追いかけたファンにとっても、ひときわ思い入れの強い場所といっていいだろう。そこにアプガが戻ってきた。ビームアイドルスクール、おしくらまんじゅ、ひかり(from オトメ☆コーポレーション)に続いて登場したアプガは、激しさから優しさまでをまんべんなく一つのステージに盛り込んでいた。圧倒的というしかない。久しぶりに聴く「マーブルヒーロー」は、以前よりもさらに心をしめつけた。

 11月15日、アプガは台場Zepp Diver Cityで行なわれた「CRAYON POP present 2nd POPCON in Tokyo」に参加した。ちなみにCRAYON POPは韓国の女性5人組グループだ。以前にも書いたかもしれないが、アップアップガールズ(仮)は決してすんなり結成されたわけではない。まずはKポップのダンス・カヴァー・ユニットである“UFZS”が始まり、それから日本語の歌を歌うアイドル・グループとしてのアプガが発足した。このイベントでUFZS=アプガはCRAYON POPのダンス・カヴァーを2曲披露した後、《チョッパー☆チョッパー》《アッパーカット!》を歌った。観客の9割はCRAYON POPのファンだったと思うが、「UFZS=アプガも一緒に応援しよう」、「日本のアイドルもいいじゃないか」と思ったファンもきっと、相当数いるはずだ。そのくらいアプガは広いZepp Diver Cityを揺らしていた。

 その三日後、アプガはタワーレコード新宿店7Fイベントスペースで“七大都市(仮)化作戦”出陣式を執り行なった。ここで話をハロウィンまで戻そう。10月31日、アプガは所属レーベル“T-Palette Records”の発売元であるタワーレコードの代表取締役社長から指令を受けた。「来年春の全国ツアー開催を実現するためには、もっとアプガを広める必要がある。メンバーが一人一都市を訪れ、プロモーションを展開することで、よりグループの認知度を高めてほしい」。
 そして11月18日、出陣式。
《あの坂の上まで、》、《チョッパー☆チョッパー》を熱唱した直後のアプガに、くだされた日時と場所は以下の通り。

11月27日(水)
【東京】 タワーレコード秋葉原店(19:00) 担当:佐保明梨
12月2日(月)
北海道】 タワーレコード札幌ピヴォ店(18:30) 担当:古川小夏
【大阪】 タワーレコード梅田NU茶屋町店(19:00) 担当:佐藤綾乃
12月3日(火)
【宮城】 タワーレコード仙台パルコ店(18:00) 担当:仙石みなみ
【愛知】 タワーレコード名古屋パルコ店(18:00) 担当:関根梓
12月7日(土)
【広島】 タワーレコード広島店(12:00) 担当:森咲樹
12月8日(日)
【福岡】 タワーレコード福岡店(16:00) 担当:新井愛瞳

 イベントは握手会、トーク、ミニライヴなどで構成。つまりソロ歌唱が聴ける貴重なチャンスでもある。しかも各地域の拠点店舗では、各メンバーのソロ写真展を開催。ファンが書き込める応援メッセージボードも設置される。
 さあ、どんなエキサイティングな“七大都市(仮)化作戦”が我々ファンを待ち構えているのか。しかも12月18日には、夏のツアー最終日にあたる東京・赤坂BLITZ公演を収めたDVD『アップアップガールズ(仮) 1st ライブハウスツアー アプガ第二章(仮)開戦』をリリース。さらに12月25日には両A面シングル《虹色モザイク/ENJOY!! ENJO(Y)!!》が出る。リリースモリモリ、かわいさモリモリのままアプガは2013年を走り切るのだ![次回12/23(月)更新予定]