「東日本大震災という実際に起きた大変な出来事を扱いながら、それに対する『想像力』を中心に据えた話を作り上げたことが本作の一番の魅力」と前出の藤津さん。

災害の中心から遠ければ遠い人ほど想像力を使わないと、そこで何が起きていたか理解することは難しい。だからこそ、想像する力が大切になる。そこに作品の価値がある」

■強い普遍性がある

 昨年11月11日から全国で公開された本作の観客動員数は1048万人超、興行収入は139億円を突破した(2月27日現在)。新海監督は前2作に続き、3作すべてで興行収入100億円以上を叩き出した。

 筆者は映画祭の賞発表後の2月26日に東京・TOHOシネマズ日比谷を訪れた。もともと若者層に人気の高い新海作品だが、日曜日の夕方ということもあって、劇場内は10代から20代前半と思しき若者たちや家族連れでほぼ満席。同映画館の支配人・若林亮太さんによれば、老若男女を問わず、幅広い年齢層が鑑賞しているという。

「ただ、重いテーマを扱っているにもかかわらず、ファミリーでご鑑賞されている方も見受けられます。『天気の子』『君の名は。』とはまた違った震災の記憶をとどめてほしいという目的で鑑賞される方も多かったのではないでしょうか」

 小学生くらいの子どもには確かに難しいテーマだ。だが、「震災を知らない人がこの映画を見たら、まず災害でお母さんを亡くした少女の話です。たとえ親を亡くしていない人であっても、鈴芽が考えたり感じたりしていることは伝わる。そういう意味では、この物語には強い普遍性がある」(藤津さん)に違いない。

 本作は世界199の国と地域で配給が決定。3月から本格的にアジア各国で封切られた。トルコ・シリアの大地震の余波が今なお続く現在だけに、ますます世界を揺るがす一作になっていくだろう。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2023年3月13日号

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