『ザ・ラスト・ワルツ』
『ザ・ラスト・ワルツ』
『ザ・ラスト・ワルツ』映画版
『ザ・ラスト・ワルツ』映画版
『ザ・ラスト・ワルツ』ボックス・セット
『ザ・ラスト・ワルツ』ボックス・セット

 ロビー・ロバートソンの“You know this guy”という、ちょっと斜に構えた感じのイントロダクションを受けて、ミリタリー・ジャケットを着たニールが舞台下手からセンター・マイクに向かって歩いてくる。怪しい目つき。足もとも覚束ない。だがともかく、ハーモニカ・ホルダーを調整しながら「彼らと一緒にステージに立てるなんて、ほんとうに嬉しい」と例の口調で話したあと、彼は「ヘルプレス」のイントロを弾きはじめる。

 『ザ・ラスト・ワルツ』。1976年11月25日、サンフランシスコのウィンターランドで行なわれたザ・バンドのフェアウェル・コンサートは、マーティン・スコセッシの手で映画化された。公開は78年春。同時に、厳密にはそのオリジナル・サウンドトラックという扱いで、3枚組(当時)のアルバムがリリースされている。ニールの「ヘルプレス」は、そのハイライトのひとつだった。

 アーカンソー出身のドラマー、リヴォン・ヘルムは、二流のロカビリー・シンガー、ロニー・ホウキンスとカナダ東部を回るうち、4人の若者と出会っている。しばらくしてロニーと別れた彼らは、旅のなかで腕を磨き、さまざまなことを学び、互いを高めあっていく。そして、しばらくボブ・ディランを支えたあと、最初のアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』をつくり上げ、世に送り出した。68年夏のことだ。

 それから7年間にわたって彼らは、商業的な意味では大きな成果を残すことはなかったが、もっとも強い影響力を持つ北米出身バンドのひとつとして活躍した。『ザ・ラスト・ワルツ』は、その実り豊かな活動の、とりあえずの終着点であると同時に、アメリカーナ・ミュージックの祝宴でもあった。伝説的存在のマディ・ウォーターズから、ディラン、「彼らは私の人生を変えた」とすら語るエリック・クラプトンまで、スタジオ収録分を含めると、10組以上の、まさに豪華な顔ぶれのゲストが駈けつけている。

 ニールはメンバー4人と同郷ということもあり、とりわけはしゃいでいるようにみえた。実際、はしゃいでいたのだろう。ロビーに呼ばれて登場してきたとき、彼の鼻のあたりは白い粉でまみれていたという。映画の編集中、スコセッシ組の重要な仕事のひとつは、最新の技術でそれを消すことだった。[次回8/26(月)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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