右が、キヤノンEOS55に28~105ミリF3.5~4.5。南さんが「うちのカメラマン」と呼んでいる妻の文子さんによるセレクトだ。オートボーイ以来、操作性を考えて同じキヤノンのカメラを使い続けているが枚数をたくさん撮るため故障が多く、EOSはKissなど数機種を経て、EOS55に至ったという。「歴史上の本人」「本人の人々」などユーモアあふれる作品はこのカメラで撮られた。左は、2005年に購入したキヤノンPowerShotG6。薄型でなく、そこそこに重みがあるのが撮影に適しているという。雑誌の連載など、最近の作品はこのデジカメで撮られている
右が、キヤノンEOS55に28~105ミリF3.5~4.5。南さんが「うちのカメラマン」と呼んでいる妻の文子さんによるセレクトだ。オートボーイ以来、操作性を考えて同じキヤノンのカメラを使い続けているが枚数をたくさん撮るため故障が多く、EOSはKissなど数機種を経て、EOS55に至ったという。「歴史上の本人」「本人の人々」などユーモアあふれる作品はこのカメラで撮られた。左は、2005年に購入したキヤノンPowerShotG6。薄型でなく、そこそこに重みがあるのが撮影に適しているという。雑誌の連載など、最近の作品はこのデジカメで撮られている
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タイトルは「眠る窓」。路上観察学会「会津調査」での物件
タイトルは「眠る窓」。路上観察学会「会津調査」での物件
昨年末に訪れた上海でのスナップ。タイトルは「手描きレンガ」。壁にレンガの模様が描かれているのだが、手前を大きく取った構図が見事だ。最近、旅行に携行するのは、デジカメのキヤノンPowerShotG6が多いという
昨年末に訪れた上海でのスナップ。タイトルは「手描きレンガ」。壁にレンガの模様が描かれているのだが、手前を大きく取った構図が見事だ。最近、旅行に携行するのは、デジカメのキヤノンPowerShotG6が多いという
カメラマンはアイデアがあり、一緒に面白がってくれる人ということで、妻の文子さんが務めている。清水次郎長を演じているのだが、「なかなか笠の位置が決まらず、どんどん注文をつけられ、働かされているという感じになった」と伸坊さんは笑顔で撮影のエピソードを語ってくれた/「歴史上の本人」(JTB日本交通公社出版事業局)から
カメラマンはアイデアがあり、一緒に面白がってくれる人ということで、妻の文子さんが務めている。清水次郎長を演じているのだが、「なかなか笠の位置が決まらず、どんどん注文をつけられ、働かされているという感じになった」と伸坊さんは笑顔で撮影のエピソードを語ってくれた/「歴史上の本人」(JTB日本交通公社出版事業局)から

――最初の自分のカメラは何でした?

 オリンパスペン、高校生のころです。「カメラがほしい」なんて言ったこともないのに、アルバイトでお金が入った姉が買ってくれました。初めてフィルムを入れた日は、街で目に付いた変なものを撮っていた。振り返ると、当時から路上観察みたいなことをやっていたんですね。そのころ引っ越したばかりで近所の風景が面白くて、毎日歩き回っていた。風景をきれいに撮ろうとかは全然なくて、写真に写り込んだ看板とか機械の部品などを虫眼鏡で見たりしていました。また高校のデザイン科だったので写真の授業があり、貸し与えられたカメラで、ものすごく壁に寄ってテクスチュアとか、変な写真を撮ってましたね。オリンパスペンはじきに飽きて、そのへんに置きっぱなしでした。

 それからずっと後になって、赤瀬川(原平)さんや松田(哲夫)さんと路上観察するようになって、また写真を始めたんです。四谷で変な階段を見つけて、「四谷階段だ」なんて言っちゃ面白がって撮っていました。(笑)

――そのころのカメラは?

 キヤノンオートボーイ。当時はオートフォーカスの一眼レフがはやっていて、赤瀬川さんも当然一眼レフを使っている。そんななかで、ぼくだけがオートボーイで片手撮りして仲間からばかにされていた(笑)。それで、何年目かにEOSを買った。重いから片手撮りができず、両手で撮るようになり、構図は絵を描くのと同じとアングルも考えるようになってぼくの写真も多少はよくなった。もともと面倒くさがりで、機械に凝る性分じゃない。EOSは失くしたり壊れたりして何台か同じのを買い、Kissを試したこともあるけど、ボディーが軽くてバランスが悪かったのでEOS55に戻した。慣れたものをずっと繰り返し使うほうなんです。

――デジタルカメラはどうですか?

 一昨年、パワーショットG6を買いました。路上観察学会の人たちは、デジカメに対して「マジカメ」と呼んでずっとアナログにこだわってたんですけど、最近は観念して使っています(笑)。そんなに不満はないんですが、肉眼で見えてないのにきれいに撮れたりすると面白くない(笑)。カメラから目を離してモニター見るのが嫌でファインダーをのぞきながら撮るんですが、そうするとフレームの加減ができない。ゆるゆるで撮るんで、緊張感がなくて面白くない。ギリギリまで寄ったつもりが、上がガラガラに空いてたりしますからね。あとはシャッタースピード。自分が写したタイミングと違う。いつまでたっても慣れない。

 写真を撮ってて楽しいのは、「上がりがこうなるぞ」って予想しながらシャッター押しているときだと思うんです。たくさん撮ったなかで、思い通りに撮れたのが何枚かあればいい。もう20年来やっている「似せ顔」もそう、あれは思い通りのが撮れているとうれしいです。

――イラスト、エッセー、写真と顔をモチーフにした作品が多いですね。なぜですか?

 やっぱりいちばん面白いからじゃないですか? 写真を撮るときって「顔を見る」ような感覚で撮ってると思うんですよ。顔ってものすごく情報量が多くて、ちょっと表情が曇ったり照ったりするその微妙な違いを瞬時に見分ける。一枚の写真も膨大な情報量を含んでいて、同じものを撮っても、文学的な要素を引き出したり、笑いを生む要素を引き出したりします。

 ぼくは、似顔絵やエッセーでも顔の面白さを扱ってきたけど、「似せ顔」写真ぽんと見せたほうが大勢の共感を得られますね。写真って、やっぱり説得力あるんですよ。いろいろ説明するより、カメラでとらえた映像そのものに、撮った人の批評とか称賛の気持ちが現れているからじゃないかな。だから何か面白いものを見たときはそのまま感じて、そのまま撮るのがいちばんだと思う。写真って、ものすごく感情をのせられるメディアですよね。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年4月増大号」に掲載されたものです

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