――最初の自分のカメラは何でした?
オリンパスペン、高校生のころです。「カメラがほしい」なんて言ったこともないのに、アルバイトでお金が入った姉が買ってくれました。初めてフィルムを入れた日は、街で目に付いた変なものを撮っていた。振り返ると、当時から路上観察みたいなことをやっていたんですね。そのころ引っ越したばかりで近所の風景が面白くて、毎日歩き回っていた。風景をきれいに撮ろうとかは全然なくて、写真に写り込んだ看板とか機械の部品などを虫眼鏡で見たりしていました。また高校のデザイン科だったので写真の授業があり、貸し与えられたカメラで、ものすごく壁に寄ってテクスチュアとか、変な写真を撮ってましたね。オリンパスペンはじきに飽きて、そのへんに置きっぱなしでした。
それからずっと後になって、赤瀬川(原平)さんや松田(哲夫)さんと路上観察するようになって、また写真を始めたんです。四谷で変な階段を見つけて、「四谷階段だ」なんて言っちゃ面白がって撮っていました。(笑)
――そのころのカメラは?
キヤノンオートボーイ。当時はオートフォーカスの一眼レフがはやっていて、赤瀬川さんも当然一眼レフを使っている。そんななかで、ぼくだけがオートボーイで片手撮りして仲間からばかにされていた(笑)。それで、何年目かにEOSを買った。重いから片手撮りができず、両手で撮るようになり、構図は絵を描くのと同じとアングルも考えるようになってぼくの写真も多少はよくなった。もともと面倒くさがりで、機械に凝る性分じゃない。EOSは失くしたり壊れたりして何台か同じのを買い、Kissを試したこともあるけど、ボディーが軽くてバランスが悪かったのでEOS55に戻した。慣れたものをずっと繰り返し使うほうなんです。
――デジタルカメラはどうですか?
一昨年、パワーショットG6を買いました。路上観察学会の人たちは、デジカメに対して「マジカメ」と呼んでずっとアナログにこだわってたんですけど、最近は観念して使っています(笑)。そんなに不満はないんですが、肉眼で見えてないのにきれいに撮れたりすると面白くない(笑)。カメラから目を離してモニター見るのが嫌でファインダーをのぞきながら撮るんですが、そうするとフレームの加減ができない。ゆるゆるで撮るんで、緊張感がなくて面白くない。ギリギリまで寄ったつもりが、上がガラガラに空いてたりしますからね。あとはシャッタースピード。自分が写したタイミングと違う。いつまでたっても慣れない。
写真を撮ってて楽しいのは、「上がりがこうなるぞ」って予想しながらシャッター押しているときだと思うんです。たくさん撮ったなかで、思い通りに撮れたのが何枚かあればいい。もう20年来やっている「似せ顔」もそう、あれは思い通りのが撮れているとうれしいです。
――イラスト、エッセー、写真と顔をモチーフにした作品が多いですね。なぜですか?
やっぱりいちばん面白いからじゃないですか? 写真を撮るときって「顔を見る」ような感覚で撮ってると思うんですよ。顔ってものすごく情報量が多くて、ちょっと表情が曇ったり照ったりするその微妙な違いを瞬時に見分ける。一枚の写真も膨大な情報量を含んでいて、同じものを撮っても、文学的な要素を引き出したり、笑いを生む要素を引き出したりします。
ぼくは、似顔絵やエッセーでも顔の面白さを扱ってきたけど、「似せ顔」写真ぽんと見せたほうが大勢の共感を得られますね。写真って、やっぱり説得力あるんですよ。いろいろ説明するより、カメラでとらえた映像そのものに、撮った人の批評とか称賛の気持ちが現れているからじゃないかな。だから何か面白いものを見たときはそのまま感じて、そのまま撮るのがいちばんだと思う。写真って、ものすごく感情をのせられるメディアですよね。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年4月増大号」に掲載されたものです