本の奥付を見ると、「2012年12月20日発行」とある。小沢さんの通夜から6日後だ。最後の本は、40年余りにわたって発表した句集。4000句が発表した順に並び、そのまま半生記になっている。
 始まりの句は、「スナックに煮凝のあるママの過去」「寒月や地下鉄工事秋田辯」「ゲバ棒の落ち目の春のにが笑ひ」。昭和44年1月のスタートである。気のあった仲間が月に一度集まり俳句会を楽しんだ。愛家であったため猫の句も多い。「陰干しの月経帯や猫の恋」「うるささに追えば七匹猫の恋」。小沢さんは駄句にこそ「私らしさ」が出ていると語る。
 間に挟まるエッセイで、小沢さんがあの良寛と薄い薄い血縁にあることを知る。良寛で最も愛する句は「柿もぎのきんたまさむし秋の風」。自然体で、ズバリ、キンタマが出てくるところに惹かれるというのがおかしい。
 最後の句は「オイそこはガラスじゃないか夏の蝶」。友と言いたい放題する句会の時間が自分の心をなごませ解放してくれたと振り返る。にぎやかな笑い声が聞こえてくる。

週刊朝日 2013年3月1日号