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 個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は、ついやってしまった変顔の顛末。

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 先日ですね。

 コンビニでレジの列に並んでたんです。

 僕の前にベビーカー。

 その中にいた赤ちゃんが、そらまあ、可愛くて。

 思わず変顔をして、あやしたくなりまして。

 お見舞いしました。渾身の変顔。

 嬉しいことに、その赤ちゃん、ケタケタと笑ってくれまして。

 僕はマスクをしたままですので、顔半分の変顔です。

 しかし顔の面積には自信がありますので、半分でも常人の常顔くらいの面積はありますからね。

 常顔ってなんだという気もしますが、とにかく僕の顔半分で繰り出した変顔で赤ちゃん、笑ってくれたんです。

 そのことで嬉しいのは、もしかしたら赤ちゃん以上に僕の方で、もしかしたらあやされてるのは僕の方かもなんてことを考えたりしながら、調子に乗った僕はさらに顔半分変顔を繰り出したんです。

 さらに笑ってくれる赤ちゃん。

 その時です。

 勘定を済ませた、その赤ちゃんのママが、ギョッとしたようにこちらに振り返ったんです。

 本来なら「可愛いですね。おいくつですか?」くらいのお声掛けをするんですが、ちょっとあまりに顔半分変顔が常軌を逸した変顔になってまして、よくまあ顔半分でそんなに常軌を逸することができるもんだと思いますが、とにかくお声掛けのタイミングを逃してしまい、おまけにその変顔を見られた恥ずかしさで僕は顔を伏せてしまったのです。

 しかし、気配を感じます。

 視線を、深く冷たい視線を感じるのです。

 そのママさん、何度も何度も、こちらを訝(いぶか)しげに見ています。

「し、しまった。完全に変なおじさんとして認識されている。誤解です! いや、変なおじさんではありますから誤解ではないです! 誤解ではないんですが、おそらくあなたがお思いのような変なおじさんではないんです。なんといいましょうか、変なおじさんの中にもいろいろとございましょう。僕は変なおじさんの中でも、どちらかといいますと、ごめんなさい何も思いつきませんが、とにかく違うんです!」

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恐怖に震えたようなママさんの声…