外貨建ての資産が円安へのヘッジと機能し、年金積立金の目減りを抑えることになった。円安が“追い風”となったかたちだ。

 GPIFが現在の資産構成(基本ポートフォリオ)の土台をつくり上げたのは2014年10月のこと。その直前まで年金積立金の60%を国内債券が占めていた。この状態がいまも続いていれば、円安の恩恵はそれほど大きくはなかっただろう。国内債券への投資比率を35%に引き下げる一方、国内外の株式を24%から50%へ大幅に引き上げた。

 しかし、これに対して、「なぜGPIFは国民の大切な年金積立金をリスクの高い株式、特に外国株で運用するのか」と、批判する声も少なくなかった。

 基本ポートフォリオの変更に踏み切った理由は何か?

 同年6月、GPIFの主管省庁である厚生労働省の田村憲久大臣(当時)から基本ポートフォリオの見直しの前倒し要請があった際のいきさつについて、GPIF企画部の本多奈織広報担当はこう語る。

「デフレからの脱却という大きな経済状況の変化の節目にあり、国内債券を中心とした運用では与えられた運用利回りを達成できない可能性があるので見直してくださいと、お話がありました」

■世界経済の成長で増える

 当時、安倍政権は、「デフレからの脱却」「富の拡大」を目指し、これらを実現する経済政策「アベノミクス」が打ち出された。基本ポートフォリオの変更は東証にGPIFの巨額資金を流入させ、株高を演出させるための道具として使われた、という声もある。

 これについて、前出の長岡さんは「アベノミクスというよりデフレ脱却時への対応ですね」と言い、こう続ける。

「デフレから抜け出すとインフレになる。基本的に債券はインフレ局面ではあまり強くないので、インフレに強い資産である株式を持っていたほうがいいだろう、というわけです。それに、国内外の債券の利回りは13年、14年あたりからずっと落ち込んでいます。債券だけでは目標利回りには届かない、という議論もありました」

 デフレ脱却に備えて日本株向けの資金を増やしたわけだが、外国株についてはどうだろうか。

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数々の暴落を乗り越え…