ところが1993年、実際の走行距離に対して課税しなければならない事態が欧州で起こった。欧州連合(EU)の誕生によって、域内の人と物の移動が自由化され、輸送トラックが通過する国々が燃料購入時に税収を得られなくなったのだ。
例えば、賃金の安いポーランドの工場で製品を作り、フランスで販売する場合、長距離トラックが給油するのはポーランドとフランスで、両国の間にあるドイツは燃料税を徴収できず、高速道路の維持管理に支障をきたす。同様のことが他国でも起こった。
そのため、EUは道路インフラに課金するルールを99年に制定。GPSや走行距離計などを用いて走行距離を測定し、重量貨物車に課税が行われるようになった。
日本の高速は「走行距離課税」
そんな下地もあって、EVの普及を目指す欧州各国では一般車についても走行距離税を導入する動きが活発化している。
さらに米国の各州もEVの増加によって燃料税の税収が減少することに危機感を強めている。環境対策に関心がある市民の多い西海岸のオレゴン州では欧州と同様な試験プログラムを始めた。
今回の政府税制調査会での走行距離税を巡る議論は欧米での動きを踏まえたものだが、国沢さんはまったく納得できないという。
その理由の一つが欧米よりも割高な高速道路の料金だ。
「アメリカなんか、ほとんどどこを走ってもタダですけれど、日本の高速道路は料金をとっているじゃないですか。これは大きな走行距離課税だと思います。例えば、東京都・練馬の家から新潟県・越後湯沢にいる友だちを訪ねようとすると、全行程は約180キロありますが、そのうち167キロは『走行距離課税』の高速道路を使う。なのに、何でそんなこともやるのか、という話ですよ」
米国でも都市部には有料の高速道路がある。しかし、日本と比べるとずっと安く、それは欧州でも変わらない。
EVは道路を傷める?
さらに財務省はEVの普及を見据えて新たに課税する根拠として、ガソリン車に比べてEVの車両重量が約20~30%重いことを挙げている。
路面が損傷する度合いは車の重量の4乗に比例し、道路橋(コンクリート床板)に対する損傷度は12乗に比例するといわれる。そこで財務省は、EVはガソリン車に比べて舗装へのダメージは約2倍、橋へは約9倍となると、指摘する。
「これも本当に屁理屈みたいな話です。会議の参加者がこの話を疑問も持たずに聞いたこと自体が不思議です。EVが多少重くなるといっても、大きなトラックが道路を傷めることに比べれば、乗用車なんか比較にもなりません」