社会派エンタメ小説『キッズ・アー・オールライト』を上梓した丸山正樹さんと、『「ヤングケアラー」とは誰か』の著者で哲学者・村上靖彦さんによる初対談。ヤングケアラーを巡る応答は、家族のあり方やコミュニティー論にまで及んだ。
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丸山:「親ガチャ」という言葉がありますが、「持って生まれた環境はどうしようもない」というような考えを持つ人は、案外多いのかもしれません。ヤングケアラー本人もその周りも、家族のケアを当然のことと考えて、逃れられなくなっています。家族というくさびから、子どもたちを自由にさせてあげたい。そんな思いでこれまで小説を書いてきたのですが、村上さんのご著書を拝読して思ったのは、親から引き離しただけで解決する問題ではないのだな、と。頭をガーンと殴られたような衝撃でした。
<『「ヤングケアラー」とは誰か』では7人のヤングケアラー経験者へのインタビューが紹介されている。長期脳死の兄や障害のある母親、過量服薬で救急搬送を繰り返す母親など、さまざまな背景を持った家族やヤングケアラー経験者の肉声がつづられている>
村上:二つタイプがあって、切り分ける必要があると考えています。一つは、親のことが大好きで、例えば客観的には虐待なのだけど、親と一緒に暮らしたいと願っている子どもがいます。この場合、安全に一緒に暮らせるサポートを探すほうがよい。他方では、いわゆる過保護な母娘関係の場合は、親にのみ込まれて全く自由がなくなってしまうケースがあります。その場合は親元から独立した方が良いと思いますし、激しい虐待がある場合は、もちろん引き離さないといけません。すごくデリケートで難しいですね。
ヤングケアラーが日本で注目されるようになったのは、おそらく家族構造の変化とリンクしています。家父長制でがんじがらめの中で、ケアが家族の自己責任として押し付けられました。核家族・共働きが増えるなかで、ケア役割が今度は子どもに押し付けられるケースが増えています。丸山さんの『デフ・ヴォイス』シリーズは、設定がすごく斬新で、家父長制を壊そうとしているように見えます。主人公の荒井は主夫的だし、娘の美和とは血がつながっていないわけですよね。