「術後化学療法は、ステージIIの一部とIIIが対象となります。従来型のフッ化ピリミジン系の経口抗がん薬のカペシタビンやS‐1などを単剤で使う場合と、ユーエフティ+ユーゼル(フッ化ピリミジン系の経口抗がん薬)、オキサリプラチン+カペシタビン(CAPOX療法)、フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン(FOLFOX療法)などを併用して使う場合があります」

 どの薬、あるいは薬の組み合わせを使うかは、再発リスクの大きさや患者の体力、副作用の兼ね合い、仕事の有無などを鑑みて総合的に判断して決めていく。

 続いて全身療法だが、大腸がんで飛躍的に進化したのはこちらのほうだ。

「遺伝子異常の有無を検査して、その結果に基づいた治療薬が使えるようになってきています。また、使える薬の種類も豊富で、標準治療は1次治療から5次治療まであります」と室医師。使える薬が豊富なことから、ほかのがんに比べても再発や転移がんで長期生存が可能だという。

 全身療法では術後化学療法で使っている薬に加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬なども戦力となっている。これらはBRAFやRAS、MSIといったドライバー遺伝子(がんの増殖に関係する特定の分子にかかわる遺伝子)に異常の有無があるかを事前に検査し、これらがあれば適応した薬を加えたり、単独で投与したりする。

 具体的には、MSI-Highなら免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを、RASが野生型なら分子標的薬のセツキシマブやパニツムマブを1次治療として考慮し、BRAFに変異があれば2次治療として分子標的薬のエンコラフェニブ、セツキシマブの併用、あるいはこれらにビニメチニブを加えた3剤併用療法をおこなう。

 さらに室医師によると、近年、治療につながる遺伝子異常が次々と見つかっているそうだ。その一つがHER2の増幅や高発現で、HER2陽性に使う分子標的薬のペルツズマブとトラスツズマブの併用療法を評価した臨床試験で有用性が認められた。これを受け、同薬剤の併用療法が2022年に承認された。

次のページ
個別化医療が進みつつある