皇太子妃時代からのスーツや衣装を大切に保管し、繰り返し身に着けられることが少なくない。公務や皇室行事において帽子は、洋服やドレスと対になる存在。洋服を新調する際には、その共布を使って作られるのが一般的だ。
だが、リメイクもそれはそれで悩ましい面はある。10年、20年前の洋服となれば共布が必要な形状で残っていれば幸運だが、そうでない場合もある。
似た質感の素材をお洋服の色に染めたり加工を施したりすることも珍しくない。
しかし、たとえ難しい状況であっても、皇后にふさわしい装いに仕上げるのがデザイナーの仕事だ。というのも、天皇や皇后、そして他の皇族方の装いは、単なるファッションで終わるものではないからだ。
皇后は、天皇の隣で国内外の要人の接遇を行い、厳粛な式典にも出席する。装いは、接遇の相手やそこに集まる人々に敬意を示す手段でもある。デザイナーは、洋服やドレスと一体感を持ち合わせた皇后にふさわしい帽子に仕上げなくてはいけない。
実は、デザイン以外にも細やかな配慮が必要だ。
天皇や皇族方は、360度どの角度から写真や映像を撮影されても困らないような立ち居振る舞いを求められる。
たとえば、風の強い日に屋外で式典に臨むこともある。そうした場面でも皇族方の負担にならないよう、帽子が飛ぶことのないように工夫が必要だ。
雅子さまの衣装は、スーツやジャケットがメイン。つばのある「ブルトン帽」がよく調和する。
ここ数年、雅子さまは白を基調としたスーツやドレスをよくお召しだ。さらに、鮮やかなブルーと白のマリンカラーも公務でよく目にする組み合わせだ。この場合、ブルーの服にブルーの帽子では色味が強すぎる。白を基調にブルーのリボンでアクセントをつける工夫がなされている。
雅子さまは、お直しやメンテナンスを繰り返しながら帽子を長く愛用されている。
「今回はこの服に合わせて」と、リボンだけを作り変える場面も少なくない。襟や袖口、ポケットにブレード(飾り)でアクセントをつけたデザインも多い。
「飾りの一部を帽子にお付けして一体感を出すこともあります。雅子さまは、どちらかといえば、すっきりとシャープな印象のデザインをお好みになられます」
平成のころ、欧子さんは園遊会で着用する帽子をデザインしていた。皇太子妃であった雅子さまに、「園遊会であればお花もよろしいかと」と提案したことがある。
雅子さまが選ばれたのは、花飾りやふわりとした華やかな飾りではなく、シルクサテンにさりげなく表情を加えた仕上げだった。
皇室は、時代を映す鏡といわれる。相手への敬意と同時に、ご自身らしさを大切にすることも、また時代にふさわしい装いなのだろう。
(AERA dot.編集部・永井貴子)