岩井:裕里の初恋の相手、鏡史郎を演じるのが福山雅治さんだし、生々しい三角関係にならない方がいいなと思っていました。(裕里の姉の元恋人役の)豊川悦司さんが夫だったら、絶対にバトルになって物語が簡単に進まなくなるよなと(笑)。そこのさじ加減はありました。
SNSの時代にあえて「手紙」をモチーフにした。裕里は、鏡史郎に亡くなった姉と勘違いされたことで、姉になりすまして手紙を書く。真実が明らかになった時、裕里が鏡史郎に「お姉ちゃんの人生がまだ続いているような気がちょっとしました」と言うように、見る者は改めて、手紙が単なる伝言手段ではないことに気づく。
岩井:人が手紙というものを書いたり読んだりする姿は、時に神々しくも見える。撮影しながら素敵だなと感じることが多かったですね。
松:便箋に向かっている間、その人のために時間を割いて、その人のことを考え、思って綴っていく。やっぱりそれは心のこもったものになると思います。裕里が姉になりすまして手紙を書くことで、姉の人生が続いているような気がするというのは、もちろん「そんな気がする」であって、実際には「人生を終えた」という現実は変わらない。それでも、一生懸命生きた姉のことを思う裕里なりの表現の一つなのかなと思いました。「姉を大切にしてあげたい」という裕里の最後の嘘。そういう嘘はとても優しい愛情に溢れていると思います。
岩井:人の死について、僕は東日本大震災の時に強く思うところがあったんです。それ以前からも人の死って何なんだろうと考えていました。生きていても会っていない人もいる。それってお互いの間では死に匹敵することなのに、あまり問われないのが不思議だなって。そんなことを思っている時期に、SNSで懐かしい友達を見つけたのでメッセージを送ったんだけど、返事がなかった。それでプロフィルを追いかけたら、1年前に亡くなっていたんです。
松:知らぬ間にご友人が亡くなっているということが本当に起こっていたんですね。