世界的ブームを巻き起こした「ダウントン・アビー」の劇場版が、いよいよ日本でも公開される。ネット配信の登場で、映画やドラマはより身近なものになった。「海外ドラマ黄金時代」の草創期から、現在までの流れをひも解く。
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海外ドラマのあたり年でもあった00年代には「独創的で質の高いドラマならケーブル局で」というのが常識になった。同じ頃、ハリウッド映画界ではアメコミやマーベルなどアクション映画に予算が偏重し、良質な人間ドラマや文芸系作品の作り手たちが不遇にあえぐようになっていた。彼らを救ったのもケーブル局だった。
映画「オーシャンズ11」の監督、スティーブン・ソダーバーグもその恩恵にあずかった一人。ゲイの歌手を主人公とした自作がリスキーすぎるとしてハリウッドから資金を得られなかったとき、手を差し伸べたのはHBO系制作会社だった。当時、ソダーバーグは語っている。
「いまはテレビの黄金時代だ。ディープなドラマ性を追求したければ映画よりもテレビのほうが可能性があるよ」
その発言があった13年、エミー賞で作品賞を受賞したのは「ブレイキング・バッド」。候補作は「ダウントン・アビー」「ゲーム・オブ・スローンズ」「マッドメン」、スパイ・スリラーの「ホームランド」、そして新興ネットフリックスの政治スリラー「ハウス・オブ・カード 野望の階段」。海外ドラマ好きなら「おおっ」と声が上がるような、まさにドラマ大豊作の年であった。
この年初登場の「ハウス・オブ・カード」の革新性は、もう伝説だろう。ネット配信企業の初単独オリジナル作品であり、顧客データの分析で狙い通りに大ヒットさせたというマーケティング成功作でもある。また1話5億円とも言われる破格の製作費で、ハリウッドの超一流人材を集め、「映画が上、テレビが下」という不文律をもぶち壊した。
これでハリウッドスターのテレビ出演は完全に解禁となった。いまではジュリア・ロバーツにサンドラ・ブロック、ロバート・デ・ニーロ、スカーレット・ヨハンソンなど、大物俳優の新作を、家でリモコンを押すだけで見られるようになったのだ。