4人がけのテーブル席二つとカウンター席だけの小さな店。村田さんは自分から話しかけないことを信条にしている。SNSを見て訪れる旅行客と近所のお年寄りたちの時間が静かに交差する(撮影/写真部・片山菜緒子)
4人がけのテーブル席二つとカウンター席だけの小さな店。村田さんは自分から話しかけないことを信条にしている。SNSを見て訪れる旅行客と近所のお年寄りたちの時間が静かに交差する(撮影/写真部・片山菜緒子)
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 閉店する喫茶店の家具を引き取って販売するウェブショップ「村田商會」。深い喫茶店愛で人と人をつなげる。今年から実店舗を兼ねる喫茶店をオープンした村田龍一さんに、AERA 2019年12月2日号で伺った話を紹介する。

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 いつもの喫茶店のドアに一枚の貼り紙。

「今月末で閉店します」

 会社員だった村田龍一さん(38)はショックを受けた。10年ほど前のことだ。

「時間を経た雰囲気が居心地のいいお店でした。50年近く使われてきたイスとテーブルを全て捨てると聞いて、思わず1セットくださいと言ってしまった」

 好きなものが跡形もなく消えてしまうさみしさ。このときの思いが、喫茶店の家具を販売する「村田商會」を始めるきっかけとなった。思い出の革張りのソファ席とテーブルは、今も自宅で使う。

 村田さんは、学生のころから1千店以上の喫茶店を巡ってきた。店主それぞれの喫茶哲学を感じる内外装、長年かけて作られた空間に身をゆだねる心地よさ。就職して転勤族になってからも、日本各地にある「純喫茶」は心のよりどころだった。

 そんな喫茶店がこの10年、次々と店をたたんでいる。

 高度経済成長期に開業ブームを迎え、全日本コーヒー協会の統計データによれば1980年代前半をピークに店数は減少。チェーン店やコンビニカフェの登場と時代の変化に加え、ここ数年は経営者の高齢化により廃業せざるを得なくなった店が少なくない。村田さんは言う。

「喫茶店の閉店を僕が止めることはできません。でも味わいある家具が不用品になるのはもったいない。同じ気持ちの人が他にもいるんじゃないかと思って」

 喫茶店の家具は、個性的なデザインや長年染み付いた汚れのせいで業者に引き取られず、処分されることが多いという。村田さんは会社退職後の2015年、ネットショップ運営サービスを利用し、閉店する喫茶店の家具を引き取って販売することにした。

 家具は独学で補修する。完璧に再生できない分、大量生産できない貴重な曲木のイスでも1脚4千~1万円程度と、比較的手ごろな値段に設定した。

 ウェブサイト上では「銀座風月堂」、吉祥寺の「シェモア」など、使われていた店ごとに商品を紹介。できる限り、営業時の写真も載せるようにした。

「中古品として物を羅列するだけでなく、どんな時間を経てきたかという価値を伝えたい。届けに行くと、愛着を持って受け入れてくれる人が多いです」

 購入する人は20~40代が中心で、男女半々。その店の常連客だった人もいる。家具のほか、食器や小物も売り始めた。

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