一方で、被害者にとっては「他人に相談すること」自体が大きなハードルでもある。いじめ被害者の相談支援を行う、ストップいじめ!ナビの副代表理事で、いじめサバイバーでもある須永祐慈さんは、こう語る。

「いじめ被害者が外部に助けを求めづらいのは、本人が被害の深刻さを客観的に把握できていない場合もある。いじめの多くは、悪意ではなく違和感から始まります。つまり、いきなり殴られるわけではなく、『君、変わってるね』『変な反応するよね』といった“いじり”からエスカレートするわけです。そのため被害者も、最初は『自分に関心を持ってくれているのかもしれない』と受け入れてしまうケースが少なくありません」

 こうした心理を加害者は逆手に取り、被害者が“いじり”と“いじめ”の線引きができなくなる状況に追い込むという。

「被害者が少しでも怒りや悲しみを示すと、『いや冗談だよ』と加害者は“笑う”んです。それが続くと被害者は『自分が気にしすぎなのかな』と、自分を責める方向に向かってしまう」

 また、被害を自覚していても、自分がいじめられている事実を認めなければならない屈辱感、相談しても変わらないのではないかという無力感、加害者からの報復に対する恐怖心など、幾重もの心理的障壁が他者への相談を妨げることになる。

「こうした状況で被害者に『いじめに立ち向かえ』と言うのは酷。だからこそ周囲の人間からの働きかけが、いじめ問題の解決には欠かせません」

 いじめに気づいたとき、周囲は何をすればいいのか。須永さんは「通報」「シェルター」「スイッチャー」「記録」の四つの役割を挙げる。

「然るべき機関に通報する、被害者に声をかけ悲しみを受け止める、いじめが起こりそうなときにさりげなく場の話題を変える、そして被害の状況を音声や画像、映像で記録する。この四つであれば、加害者と直接対峙するのが怖くてもできるはずです」

 陰湿な大人のいじめ。被害者も周囲も一人で立ち向かわなくていい。ただ、できることはある。(ライター・澤田憲)

AERA 2019年11月4日号より抜粋

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