──今回も中山さんにオファーしたい、と思ったのはそんな姿勢が大きかったのですか。

鴻上:「ローリング・ソング」に出てもらったとき、じつに熱心に、ちゃんと俳優をやろう、と向き合っているのがよくわかった。それから「こんなふうにやってみてくれる?」という僕の演出に対してもちゃんと応えてくれた。次も出てくれたら嬉しいな、と思ったんですね。

中山:嬉しかったです。台本を読む前から「ぜひやらせてください」という感じでした。

鴻上:優馬は「舞台って面白い!」と強烈に感じた体験というのはあったの?

中山:初めて舞台に出ることになったとき、稽古の初日に、最初の台詞を間違えてまったく違う言葉を言ってしまったんです。いつもできていたことが、急にできなくなった。そんな経験は初めてだったので「なんだ、この感覚は」と感じたことはよく覚えています。舞台は止まるわけにはいかないので、責任の重さがすごい。でも、それが結構好きだなと思うこともあります。満足することがあまりなく、“課題”が終わらないような感覚も舞台ならではです。

──観客に「届いた」という瞬間みたいなものは、舞台上で感じられるものですか。

中山:空気ですぐにわかります。「ちょっとバラバラになっているな」と思うときもありますし、前のめりで観てくださって「完全に惹きつけられている」と感じる瞬間もあります。

鴻上:毎回毎回違うよね。でも、僕が俳優さんに言うのは、稽古場でやれることをやっておけばいいんだ、ということ。結果的に笑うお客さんもいれば、笑わないお客さんもいる。でもそれでいい。演劇の面白さを伝えるには、やっぱり面白い演劇をつくろうとするしかないんだよね。

中山:僕らにできることは、稽古をして、ちゃんとしたクオリティーのものをつくりあげて、お客さんが見に来てくださるときに備える、ということ。本当は今日ももっと舞台の中身を言いたいのですが、そのときのためにいまはまだ伏せておきます(笑)。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年11月4日号