旅人が集まった説明会。企業が各テーブルを回る座談会や、企業担当者に自由に話しかけられるフリータイムには質問が途切れることがなかった(撮影/編集部・川口穣)
旅人が集まった説明会。企業が各テーブルを回る座談会や、企業担当者に自由に話しかけられるフリータイムには質問が途切れることがなかった(撮影/編集部・川口穣)
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静岡県立大学国際関係学部 梅垣愛さん(22)/過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭による難民問題で国際支援に関心を持つ。インターンでスリランカを訪れた(写真:本人提供)
静岡県立大学国際関係学部 梅垣愛さん(22)/過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭による難民問題で国際支援に関心を持つ。インターンでスリランカを訪れた(写真:本人提供)
神戸大学法学部 山根健太郎さん(22)/初めての海外は中学生のときの学校研修で3週間滞在したニュージーランド。ホームステイ先でコミュニケーションをとることの楽しさを知る(撮影/編集部・川口穣)
神戸大学法学部 山根健太郎さん(22)/初めての海外は中学生のときの学校研修で3週間滞在したニュージーランド。ホームステイ先でコミュニケーションをとることの楽しさを知る(撮影/編集部・川口穣)

 就職活動に乗り遅れるという理由で、海外に行くのをためらう学生が多いという。そんなな状況を変える「旅人採用」が注目を集めている。AERA 2019年10月21日号に掲載された記事を紹介する。

【写真】イベントに参加した旅人たちはこちら

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 集まった学生は、全員が「旅人」。9月中旬、東京・渋谷でそんな一風変わった就職合同企業説明会が行われた。内向き志向の学生が増え、海外旅行経験がある大学生は4割弱にとどまるとの調査もある。そんななか、この日集まった計90人の学生は、全員が訪問5カ国以上、または滞在1カ月以上の海外経験を持っている旅好きたち。条件を満たした「旅人」だけが登録できる就職エージェント「旅人採用」が主催した。

 このイベントに参加した静岡県立大学3年の梅垣愛さん(22)もそんな「旅人」のひとりだ。大学1年の夏、所属していた国際協力サークルでカンボジアを訪れて現地の生活に触れ、現地で働く人に出会ったことがきっかけで旅にはまった。一人旅、友人との旅行、スリランカでの2カ月間のインターンと旅中心の学生生活を送った。当初は国際支援に興味を持っていたが、サークルのカンボジアツアーを「つくる」側に回ったことで、コンテンツをつくり、発信する楽しみを知った。

「進路はまだ迷っているけれど、思いを持って自社サービスやメディアを運営している会社に行きたいです」(梅垣さん)

 熱意を持ってコンテンツづくりに取り組むベンチャーに興味があるという。

 旅人採用は、「旅人の帰国後の不安をゼロにする」ことをコンセプトに、2018年3月にスタートした。運営するのはリゾートなどへの人材派遣を担う「ダイブ」と、旅をテーマにしたイベントなどを手掛ける「TABIPPO」の2社。

 TABIPPOで旅人採用を担当する浦川拓也さんは言う。

「就職活動への不安から海外に出られないと話す学生が多くいます。選考に参加できない、情報を取りづらいといった物理的な問題はもちろん、休学で就活のタイミングを逃したり卒業が遅れたりすることへの漠然とした不安も少なくありません」

 浦川さん自身も学生時代に世界一周を経験したが、行ってみてわかったのは、就活に対して「実際の不利益は多くない」ということ。帰国後の不安さえなければ、もっと多くの人が旅に出られるはずだという。

 神戸大学の山根健太郎さん(22)も、そんな不安を抱えながら海外に出たひとり。去年の秋から半年間大学を休学し、タイの企業で海外インターンを経験した。4回生だが、同期よりも「半年遅れ」。この秋は3年生と一緒に就活をスタートした。就活が終わったらもう半年休学し、ヨーロッパとアフリカをじっくり旅して再来年の4月に就職する予定だという。

 実は、休学前の去年秋にも就活を始めていた。だが、自分が働く姿を全く想像できず、就活を休止して海外に出た。

「休学前は本当に悩みました。レールを外れることが怖かったし、将来への漠然とした不安が大きかった。でも、このままズルズル就職するよりはと思い、思い切って海外に出たんです」

 半年近い海外生活を経て、身につけたのは自信だ。

「前よりも自分の行動に自信が持てるようになった。チャレンジすることへのハードルが下がった気がします」(山根さん)

(編集部・川口穣)