ノーベル文学賞を取る人は言葉の革命家──。ドイツ文学者の松永美穂さんと翻訳家の鴻巣友季子さんが受賞者の発表を機に、「セクハラ騒動後」を語り合った。AERA 2019年10月21日号に掲載された記事を紹介する。
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松永美穂:今年は2年分の発表ということで、ノーベル文学賞はポーランドのオルガ・トカルチュクさん(57)とオーストリアのペーター・ハントケさん(76)の2氏が受賞しました。
鴻巣友季子:昨年はセクハラ問題で1年飛びましたから禊(みそぎ)的な側面はあるだろうなと思っていました。そういう意味でも二人のうちどちらかは女性で、なおかつフェミニズムへの意識の高い作家が取るのだろうなと。
松永:ボブ・ディランとカズオ・イシグロという英語圏の人が続いたということもあり、アジア圏の女性が初の受賞という可能性もあるかなと思っていました。昨年、ニューヨーク・タイムズの座談会でも多和田葉子さん(59)の名前が候補として挙がっていましたから、とにかく多和田さんについて聞かれることが多かったんです。アジア圏の女性という意味では、韓国のハン・ガンか多和田さんか。そう考えていくと、もう一人はヨーロッパの小国の作家か、植民地主義に対する反対を打ち立ててきたケニアのグギ・ワ・ジオンゴあたりが取ってもおかしくないとは思っていました。
鴻巣:多和田さんはジャーナリスティックな面もあり、フェミニズムも入っているし、言語越境性もあり、ノーベル賞の本筋だと言えます。現代文学の中で韓国のハン・ガンは飛び抜けていますね。村上春樹さん(70)がちょっと不利な点はフェミニズム方面に弱いところ。わりと脇の甘いこと書いちゃうから。
松永:男性的な自我が生き残っていく話ですからね。女性は踏み台にされちゃう。
鴻巣:そういう意味でも村上さんは今年の本筋ではなかったんですよね。
松永:村上さんが取ったら、スウェーデン・アカデミーが変わったんだ!と驚いたと思います。