合奏譜は、簡潔なモチーフの変化や繰り返しを効果的に生かしたアレンジが主でとっつきやすい。初級、中級、上級と3種用意し、事前に参加者に送る。

「弾きやすい楽譜を選んでもらうんだ。コンプレックスを感じずに弾いてほしいからね。大切なのは、自分のエネルギーやパッションを存分に発揮すること」

 入魂の演奏に、アンコール後も拍手がしばらく続いた。舞台裏を訪ねると、「ソッリマさんの求心力はすごい。日常に戻れない」と話すチェロ歴13年の男性会社員(28)や、「心から音楽を演奏することを学んだ」という男子音大生(21)ら、みな満ち足りた面持ちだった。チェロ歴12年の主婦は「心が解放されて幸せです」。山形から参加した最年少8歳の男子小学生は「ソッリマさんが作曲した『チェロよ、歌え!』が好き。一緒に弾くうちに、この和音を使うと音がきれいに鳴るんだなと分かりました」と笑顔を見せた。

 ソッリマはこう振り返った。

「互いのインスピレーションを感じ合い、クリエーティブな素晴らしい体験ができた。日本人は朝早く来たり、休憩時間まで練習する人がいて驚いた。イタリアではあり得ないね(笑)。愛を持って演奏しに来てくれたのがよく分かったし、聴衆とも会話しているかのようだった」

(音楽ジャーナリスト・原納暢子)

AERA 2019年9月9日号