その後、私は都内の複数の総合病院で血液内科医としての勤務を経て、今は駅ナカのクリニックで院長として働いている。さすがに直接的な女医差別を受けることは減り、差別を意識することが少なくなった。昨年、複数の医学部医学科で「女性差別」を含む不公正な入学者選抜が発覚したときには、「女医」と言われたときのちょっと低く見られているなという感覚が久しぶりに甦ってきた。
■価値観をかえよう
価値観は、伝染していく。たぶん、20年前に言われていた「女性は控えめに」なんていう価値観は、いまだに男女ともに根強く残っていると思う。私の世代はすでに管理職の世代だ。20年前に手にしていた古い価値観を今もまだ抱えているのだろうか。ささいな女性蔑視、冗談めかしたセクハラまがいの言動、そういうものを文化の一部として許容し続けると、女性差別を容認する文化は今後もさらに強化されてしまう。古いパラダイムを抱えたままでは、その集団は活性化できずに、低迷していくしかない。
医学部も男女ともに大学に入学する機会は均等に与えられるべきだし、もし働き方を前提に大学入試の門戸に偏りが生じるのだとしたら、そもそもその働き方自体が歪だと考えて変えていくべきではないのか。男性だから、女性だから、ではなく、男性も女性も、全体が成立するように、それぞれのバランスで仕事をして生活をする方向性を考える時期である。
(文/ナビタスクリニック新宿院長・濱木珠恵)
※AERAオンライン限定記事