北方領土に関しては日本政府の姿勢そのものが揺らいでいる。一昨年来、プーチン大統領との首脳会談を経て「必ず終止符を打つ」と宣言。19年版の外交青書から「北方四島は日本に帰属する」との表現を消してまでロシアに譲歩した。一時は北方領土の「2島返還」をカードに衆議院を解散するとの臆測まで浮上したが、いまだに進展はない。

 米国と軍事的衝突の危険性が高まるイランを訪問したのは、G20の直前だった。イランの最高指導者ハメネイ師との緊張緩和に向けた対話を買って出たが、訪問後も両国の関係は平行線のまま。トランプ大統領からはツイッターに「(晋三の行動は)時期尚早だ」と書き込まれてしまう。

 しかも、安倍首相がイラン滞在時、ホルムズ海峡で日本の海運会社が運航するタンカーが何者かによって攻撃を受ける事件が発生。中東に石油を依存する日本にとって深刻な事態だが、ここでもトランプ大統領から「なぜ米国が代償なしに他国のために輸送路を守っているのか」と釘をさされてしまった。

 いよいよ火ぶたが切られた参院選。消費税、年金、原発など国民の関心は多岐にわたるが、安倍政権の外交に対する信任も問われる。首相周辺からは「与党で非改選合わせて過半数(123議席)」との勝敗ラインも聞こえてくる。自民、公明の両党で非改選議席数は70議席なので、最低でも53議席が必要となる計算だ。「外交の安倍政権」に対し、国民はいかなる審判を下すのだろうか。(編集部・中原一歩)

AERA 2019年7月15日号より抜粋