「ユディト1」1901年/クリムトの代表作であり、彼の名を広めた作品。稲垣さんの腕で隠れた部分に、敵の司令官の首を提げている/ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵(撮影/山本倫子)
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 グスタフ・クリムトの展覧会が、東京・上野の東京都美術館で開催中だ。代表作から意外な作風のものまで、クリムトと不思議な縁を持つ稲垣吾郎さんと共に読み解いていく。

【開催中のクリムト展をフォトギャラリーでご紹介!】

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 5月中旬、閉館後のひっそりとした展示室で俳優の稲垣吾郎さん(45)は作品の前で足を止めた。しばらくたたずむと、細部にまで目を通していった。

 東京・上野の東京都美術館で開催中の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」には、日本では過去最多となる25点以上のクリムトの油彩画が並ぶ。19世紀末のウィーンで新しい芸術の道を切り開いた彼の人生とその多彩な画業を、同時代の画家の作品とあわせて読み解く展覧会だ。

「刺激的だったり、官能的だったり、ときにおどろおどろしかったり。クリムトの作品は豪華絢爛でありながら繊細さもある。圧倒されました」(稲垣さん、以下同)

 旧約聖書外典に登場する女性を題材にした代表作「ユディト1」を間近に見る。金をふんだんに使った「黄金様式」で知られるクリムトが、初めて金箔を使ったのがこの作品だ。官能的かつ冷徹な表情を浮かべるユディトは、アッシリア軍の敵将を惑わしてその首を切り落とし、故郷を守った。

「ユディトが手に持つ生首も、あまり怖くはないですね。毒々しさや退廃的な表現のなかに、どこか装飾の可愛らしさがあるからでしょうか」

 展示作品で、稲垣さんが気に入ったものを聞いてみた。意外にも、耽美な黄金様式の作品ではなく、柔らかな色彩で描かれた数点を挙げてくれた。

「ほわっとした絵が好きなんです」

 その一つが、「葉叢の前の少女」(1898年頃)だ。このモデルの身元ははっきりせず、クリムトが多様な表情を研究するために描いた作品とされる。密度の濃い緑の前に、パフスリーブの白いブラウスを着た清楚な女性が立つ。

「ルノワールのようなタッチで、自然光を浴びて少女の瞳孔が大きく開いている。その目に引き寄せられました。小ぶりなドレスの感じも好きです」

 女性を描いた作品が多いことにも着目した。展示作品を見ても、男性を描いた作品はわずかしかない。

「僕が画家だったら、同じように女性を多く描いたかもしれないと思いました。力強く前を見据える女性よりも、クリムトの姪の横顔を描いた『ヘレーネ・クリムトの肖像』のように、ふとした隙が感じられるような女性を描きたいです」

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