「3人の専門家に鑑定を委託したのに、このうち1人の結果だけを公表するのは都合の悪いデータを隠す意図的な情報操作と受け取られてもしかたがない。遺骨収集事業の今後を考えるうえで重要なデータを、なぜ公表していないのか理解できない」
311体のうち、130体を解析し、厚労省が論拠にしたのが、国立遺伝学研究所の斎藤成也教授(62)の報告だ。報告書の日付は11年9月28日。71体の鑑定結果を山梨大の安達教授が翌12年10月12日に報告し、残りの110体の鑑定結果を同15日に山形大学の専門家が報告している。
3人の専門家の鑑定手法は異なる。斎藤教授が行ったのは、「ミトコンドリアDNA解析」と呼ばれ、母親から子どもに遺伝する特徴がある細胞小器官のミトコンドリア内のDNAを用いた手法だ。この解析によると、日本人と見られる個体が5、フィリピン人と見られる個体が54で、残りはDNAが抽出されないものや、タイプが特定できないものなどだった。
この斎藤教授の報告をもとに、厚労省は翌月に「日本人のものも含まれていた」とする、中途半端な検証報告書を公表。翌年上がってきた山梨大、山形大の2研究機関からの鑑定結果はひた隠しにしてきた。
考えられる理由は一つ、山梨大と山形大で行った「核DNA解析」はミトコンドリアDNA解析よりも格段に精度が高く、かつその鑑定結果に日本人と見られる個体が皆無だったからだ。核DNA解析は、当初から斎藤教授が強く推奨したにもかかわらず、厚労省が頑として受け付けなかったという。
●不確かな手法を要請「一切学会発表するな」
私は4月下旬、快く取材に応じてくれた斎藤教授に会うために、静岡県三島市の遺伝学研究所を訪れた。
「もう8年ぐらい前になりますね。厚労省には、一切学会発表するなとくぎを刺されましてね。『普通われわれが行う核DNAでやったら、遺族までわかりますよ』と何度も勧めたのに、ミトコンドリアでやってくれの一点張りでした。当時の値段だと、核DNAなら1体10万円、ミトコンドリアだと1体3万円が必要だったのですが、当時厚労省は1体当たり3万円までしか出せないと」(斎藤教授)