プロ顔負けのピアノの腕を持つ外交官がいる。OECD日本代表大使で、日本人としては24年ぶりにIEAの議長を務める大江博さんだ。
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今年3月、外交官でありながらピアニストの顔を持つ大江博さん(63)は、難関として世界的に知られる「パリ国際アマチュアピアノコンクール」に出場、100人近い参加者の中を勝ち進み、陰影に富むショパンで第5位入賞を果たした。
大江さんは36カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の日本政府代表部大使としてパリに赴任、日本人としては24年ぶりに国際エネルギー機関(IEA)理事会の議長を務める。トランプ米政権の動向などでエネルギー政策の見通しが不透明となり、難しいかじ取りを任せられたなかでの快挙だった。
大江さんがピアノを始めたのは5歳のときだ。「将来は音大へ」と思っていたが、17歳の時に東大受験を決意してピアノを中断した。東大入学後は実家に帰省した際に触る程度、卒業して外務省に入省すると仕事で頭がいっぱいになり、ピアノを弾く気にはなれなかった。
それでもときには数カ月間レッスン再開を試みたり、晩餐会で演奏を披露することもあった。外交官は、仕事を離れた交際の場も多い。先輩からも「職場と家の往復だけの人は、良い外交官になれない」と言われたが、実際、ピアノの演奏が外交に役立つと感じることも多かったという。
「40代前半、米国の日本大使館に勤務していたとき、その後国務副長官になったR・アーミテージ氏を自宅に招待し、ピアノを聴いていただいたことがあります。12、13年後、アメリカへ出張した際に彼に面会を申し込んだら、すぐ食事に招待してくださった。私のことなど覚えていないだろうにと不思議に思ったら、『あなたのピアノは一生忘れられませんよ!』と。ピアノ演奏は、ただ食事を共にするのとは違うのですね」
とはいえ練習時間を確保するのは難しく、本格的にレッスンを再開したのは50歳のとき。外務省を退職して東大教授に就任し、まとまった時間ができたことがきっかけとなった。