12年4月から活動する市民放射線測定所・NPO法人「新宿代々木市民測定所」(東京都)には、今も全国から尿や野菜、コメ、キノコ、公園の土壌など月50件近い測定の依頼が来る。理事・伏屋(ふせや)弓子さんは言う。
「事故直後から食べ物に対する不安の温度差はありました。今も同じ。健康への被害を心配される人は少なくありません」
放射能のリスクとどう向き合えばいいのか。環境中のさまざまな放射能測定に取り組む、東京大学大学院助教の小豆川勝見(しょうずがわかつみ)さん(環境分析化学)は、課題のひとつに教育を挙げる。
「学校でも教師の多くは放射能について十分な知識を持たないのではないでしょうか」
必要なのは、セシウムとは何か、放射線とは何なのかを知り気兼ねなく話し合いができる環境。そのためには、特に若い世代への教育が必要だと説く。
「放射能の議論は必ず次の世代にも影響する。学校教育などでしっかり放射能の話をしなければいけない」
では、いまこの瞬間に何をすべきなのか。冒頭で紹介した甲状腺エコー検査の協力医の一人で、島根大学医学部の野宗(のそう)義博・特任教授は次のように話した。
「低線量での放射能の健康被害はわかっていない。しかし、リスクがゼロでない以上、検査には意義がある。がんが見つかればショックかもしれませんが、すぐに処置すれば小さな手術で済む。大切なのは継続して検査を行うことです」
復興が進み、戻りつつある「日常」と、終わらない「困難」。背負ったものの重さを改めて思った。(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年3月18日号