内田樹著『夜明け前(が一番暗い)』(朝日新聞出版)※Amazonで本の詳細を見る
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 1980年代終わり頃バブルの全盛期には、日本人はお金があり過ぎて、買うものがなくなり、とうとうマンハッタンの摩天楼や、ハリウッドの映画会社や、フランスのシャトーや、イタリアのワイナリーまで買うようになりました。「こんな無意味な蕩尽(とうじん)をしていると、そのうち罰(ばち)が当たるぞ」と僕は思っていましたが、やっぱり予想通りになりました。図に乗ってはいけません。

■長く生きてきて確信を持って言えること

 罰が当たって30年、日本は少子化・高齢化という人口動態上の負荷もあって、「落ち目の国」になりました。今の日本の指導層の方々には悪いけれど「落ち目の国に最適化して、貧乏慣れした」人たちです。だから、彼らはもう日本をもう一度なんとかするという気はありません。もう日本に先はないんだけれど、公共的リソースはまだまだ豊かにある。だから、公権力を私的目的のために運用し、公共財を私財に付け替えている分には、当分いい思いができる。そういう自己利益優先の人たちばかりで政治や経済やメディアがいまは仕切られています。

「貧乏慣れ」した人たちというのは「日本が貧乏であることから現に受益している人たち」です。ですから、彼らは現状が大きく変わることを望んでいません。このまま日本がどんどん貧乏になり、国民が暗く、無力になり、新しいことが何も起きない社会であることの方が個人的には望ましいという人たちが今の日本ではシステムを設計し、運営している。

 でも、僕はこんなことがいつまでも続くとは思いません。だって「落ち目の国」という環境に最適化して、「貧乏慣れ」することで受益している人の数は日を追って減っているわけですから。圧倒的多数の人たちは「もうちょっとましな国」になって欲しいと願っている。そして、<多くの人が強く願うことは実現する>。これは長く生きてきて僕が確信を持って言えることの一つです。問題は「多く」と「強く」という副詞のレベルにあります。原理の問題ではなくて、程度の問題です。

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