2014年、中国の青島で米、露、中、日、韓など21カ国の海軍首脳が参加して行われた「西太平洋海軍シンポジウム」では、法的拘束力のない自発的な規制として「艦長は誤解されるおそれのある行為をする前に、派生的影響を考えるべきだ。慎重な艦長が一般的に避ける行為としては、砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷発射管、その他の武器を艦船、航空機に向ける、などだ」と合意された。
これは各国が調印、批准した協定ではなく、海軍の信頼醸成のために誤解を避けるマナーを示したものだ。もしロシア艦が射撃用のレーダーを照射しても、法的拘束力がある日露協定では危険行為として禁止していない以上、強い抗議はしにくい。
射撃用レーダーの照射は「ミサイル発射寸前だった」の報道もあるが「広開土大王」号が艦首の対空ミサイル16発入りの垂直発射機のハッチを開いていない以上、嫌がらせ程度にすぎず、大局的に見て韓国海軍が日本の哨戒機を撃墜する危険が現実にある状況ではなかった。「米軍は射撃用レーダーで照射されるとただちに攻撃する」との説があるが、これはイラク上空で米軍機がイラクの対空ミサイル用のレーダーの照射を受けた際の話だ。米空軍には敵の防空網制圧を専門とする部隊があり、レーダー電波の発信源に向かうミサイルを付けて哨戒飛行をし、相手が照射するのを待ち構えて攻撃した。平時に公海で軍艦が出合うのとは全く状況が違う。
冷戦たけなわの1972年にも、米ソの海上事故防止協定が成立したことを思えば、今後南シナ海で対立する米中間での不測の事態を防ぐため、同様な米中協定が結ばれ、日本もそれに続く可能性はある。それは日本の安全保障上望ましいが、ロシアとの協定では射撃管制レーダーの照射は危険行為としていないから、中国、韓国との協定でそれを禁止するのは整合性に欠ける。日露協定にもそれを入れるよう改定を持ちかけても、ロシアは多くの国と同一の協定を結んでいる以上難しそうだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)
※AERA 2019年1月21日号