CDが最も売れていた時代にヒット曲を連発して、一時代を築いた。音楽やファッションだけでなく、自身の内面を吐露するような歌詞も注目され、浜崎はカリスマ的な人気を獲得した。活躍した時期の長さ、CDの売上、存在感などで見ると、彼女に並ぶ存在はなかなか見当たらないほどだ。
そんな浜崎はずっと一般人には手の届かない存在であり続けてきた。人気が落ち着いてきてからも「落ちた」「消えた」という印象を与えることはなかった。「格上」という雰囲気を残したまま、淡々と活動を続けた。
その後、浜崎のかつての恋愛経験が赤裸々に描かれたドラマと小説が話題になり、再び脚光を浴びた。これらの作品は彼女にとって過去に区切りをつけるという意味合いもあったのではないか。
そんな浜崎が『かまいガチ』に降臨した。オープニングアクトでは、山内と共に巨大な筆で浜崎あゆみのロゴマークを完成させた。余興のコーナーでは山内とコントを演じて、彼の体からウェットスーツをはぎ取るパフォーマンスを見せた。
深夜番組の安っぽいセットの中に、当たり前のように浜崎あゆみがいる。それが一見すると異様に見えるのだが、これが今の浜崎の等身大の姿なのだろう、とも思う。
かつて「上の世界」の住人だった彼女は、今では「別の世界」にいる感じがする。いわば、レディー・ガガやテイラー・スウィフトのようなポジションになった。上かどうかもよくわからない、別の星から来たような異質な存在。紆余曲折を経て、彼女はようやく完成形になったのだ。
番組内では、浜崎の威光に気圧されて、紅しょうがの熊元プロレスは何度もネタを飛ばしたり、台詞を間違えたりして収拾がつかなくなっていた。芸人としては情けないところを見せてしまったわけだが、実はこれが普通の反応である。浜崎を前にして、淡々と普段のバラエティ的な進行ができるかまいたちの2人の方がどうかしているとも言える。
今後、浜崎がときどきバラエティに顔を出すようになっても、彼女が俗世に染まったような印象を与えることはないだろう。キャリアを重ねて、フィクショナルな存在となることで永遠性を獲得したからだ。輝き出したあゆを誰が止めることなどできるだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)