なぜ、スタンフォードは常にイノベーションを生み出すことができ、それが起業や社会変革につながっているのか? 書籍『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』では、スタンフォード大学で学び、現在さまざまな最前線で活躍する21人が未来を語っている。本書より一部を抜粋・再編して、東京電力の社内ベンチャー、株式会社アジャイルエナジーXの立岩健二氏がスタンフォードで学び、保守的な大企業で社内ベンチャーを立ち上げるまでの道のりを紹介する。
* * *
■東京電力保守本流の原子力部門でMBAに目覚める
2000年、筆者は東京電力本社原子力技術部で、米国GE、東芝、日立と共同で次世代原子炉の開発に取り組んでいた。柏崎刈羽原子力発電所6/7号機(1996年/1997年運転開始)で採用された、最新の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)をさらに進化させた、ABWR-2と称する、世界最高水準の安全性と経済性を誇る原子炉の開発計画である。
当時、東京電力は17基の原子炉を保有・運転する、世界第2位の原子力事業者であった(第1位は、フランス電力公社)。筆者は東京電力が今後も国内ではもちろんのこと、世界でも原子力業界のリーディングカンパニーであり続けるものと信じて疑わず、そのような会社で原子力事業を推進していることを誇りに思っていた。
そのころ、米国ではエネルギー企業エンロン社が隆盛を誇っており、日本法人を設立して大型発電所の建設計画を発表するなどしたことから、「黒船襲来」と国内電力業界は戦々恐々としていた。エンロンが日本の電力会社を買収するのでは、という噂も広がっていた。万が一、東京電力がエンロンに買収され、短期的利益と株価上昇のみの観点から原子力事業からの撤退を強制されるような事態になると、日本のエネルギー基盤が揺らぎかねない、という危機感を筆者は強く抱いた。
このような事態を回避するためには、原子力技術だけを極めるのでは不十分であり、グローバルに闘える経営スキルも修得しなければならない。エンロンをはじめとする米国の一流企業の経営層は、トップスクールのMBA保有者であることが多いということも知り、筆者はMBA取得を目指すことを決めた。幸い、東京電力には公募による海外留学制度があったため、応募することとした。